第四一九回 決戦は金曜日。それは今日の正午だ。


 ――緊張するはずの登校の歩み。でも、あまりに普通で、見慣れた景色も含め。



 僕らを追い越す生徒たちも、すれ違う人たちも……


 何も、何も変わりない。それに歩み同じくする梨花りか可奈かなも、いつもの通り普通だ。


「……可奈、今朝のって本当にファーストキスだったの?」

 と、言ったのは僕ではなく、梨花だった。


「あ、あれは事故。ノーカンだから、問題ない」


「そんな問題じゃない。可奈は忘れたんだ……そうなんだ」


 ギロッと睨む梨花。僕にではなく可奈に向かって。今日の『決戦は金曜日』の趣旨とは異なるけれど……まあ、別の意味で、梨花にとっては決戦の今この時かもだ。


「だから、何拗ねてるの、梨花?」


「……キス。熱いキスしたじゃない僕と。忘れられないシチュエーションだったのに、僕が執筆で自信なくして、苛立って可奈に泣き言……で、可奈は僕を思いっ切りぶって、パパにもぶたれたことなかったのにぶって、その後のキスだから……僕には衝撃な出来事なのに、可奈は……可奈にとっては忘れちゃうくらい、軽いことだったんだね」


 梨花に言われて、いや梨花が言ったから、思い出せた。――あの濃厚なキスシーン。


 可奈も、ハッとなった様子だけれど、あくまで動揺はせずに……


「わ、忘れてなんかないの。あのキスはね……梨花とのキスは特別。カウントなんかできないくらい特別なんだから。……ねっ、だから機嫌直して」と、動揺しまくりだけど。


「……ホント調子がいいんだから。まあ、可奈には、大きなお願い聞いてもらったし。僕からお礼しなきゃね。――可奈、千佳ちかのことホントにありがとね」

 と、梨花は頭を下げて、笑顔になった。


「まだ終わってないわよ。今日の正午が決戦の刻だから。皆、心してね」


 緊張はその奥にあった。SNSの件はまだ終わっていない。可奈の言う通り芸術棟で相手と対面する予定。……できるなら、警察沙汰にしたくないと、そう願うばかりなの。



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