第四一三回 そのスタートを切る、中等部三年生。


 ――さあ、夕陽に向かって走ろう! 的なスタートを切りそうな場面。


 或いは、先生の胸に飛び込んで来い! のような場面になりそうな不陰気だけれど、多分それはないと思う。もし実現しちゃったら大変なことになる。現在の教育事情により。


 第一ここはお花畑。


 夕映えの刻にも、まだ遠くて。……同じ青春ドラマでも、もっと少女漫画のような展開を僕は望んでいる。そうならば、――ほら、聞こえるでしょ? 物語を繋ぐ息遣い。


 彼方かなたから此処ここまで、動くシルエット。


 寝ころんでいた上半身を起こす僕と、早坂はやさか先生。近づくシルエットは、その光の加減で誰かを明らかにする。――それは僕の、そして僕らの大先輩。この学園の先生なの。


瑞希みずき君」

 と、早坂先生は、その名を呼ぶ。


 微笑む瑞希先生。何やら持っている……バスケット。それに水筒らしきものまで。

 もしかして、もしかして……


「そう、彼女。あの頃の瑞希君に君が似ているものだから、思わず声を掛けたんだ。ビックリさせてごめんな。君もきっと、彼女と同じように数学が好きになるから大丈夫さ」


 ……って、そっちなの?


 でも、あっ、これって、浮気……だよね? パパよりも目上の方にドキドキしちゃうなんて……だから、これで良かったの。一瞬だけれど、僕は禁断の設定を思考してしまったの。高校教師ならぬ中学教師に……大いなる過ちの物語を。僕は、まだ子供だから。


 ――すると、

 もう瑞希先生が目の当たりに。


千佳ちかさんも、一緒に食べよっ。少しばかりのソーシャルディスタンスを取りながらだけど、ちょっとしたピクニック気分。お花畑だけに、お花見になっちゃうね」


 早坂先生が微笑む。桜はないけれど、お花見には違いない。バスケットのサンドウィッチを食す。瑞希先生と早坂先生が徒ならぬ関係と勘が走る。子供でも僕は女だから。



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