第四〇七回 時過ぎれば、もう新学期。


 ――夢だったのか? いまいち疑問だけれど、桜並木を見上げて歩く今日の登校日。



 春の香りはまだ、


 ……そう満ち溢れている。心構えもまだだけれど、新学期を迎える僕ら。中等部ももう三年生。そう思うと実感が。……僕ら三人この道を、並んで歩いた一年生の秋から。


 ブレザー制服が風に靡く。

 ちょっと大人になったのかな? あの頃と少しばかり着心地が違う感じがするの。


 左の手首の傷も……薄れてきて。


 一年半の実感も……グッときて。感じる感じる感じる。笑う場面も多くなったね。それから、それからね……「顔色もね。明るくなった」と、梨花りかは声にして付け加えた。


「それに、逞しくなったね」と、可奈かなも。


 一緒に歩くのは同じ面々。梨花と可奈、いつも並んで歩いてきたこの道、道程を。

 何もかもを知った仲なの。これからも、ずっとずっと……


 新しい驚きと巡り会う仲。この春はきっとイベントまみれ、出会いも多く広がるの、世界観。――井戸の中の蛙は、立派に大海へ臨む。大人への階段を手を取り合って上る。


 すると、ほら!

 学園への一本道の途上で、会えたの。


 正式に、この学園の生徒。それを勝ち取って、

 正式に、僕らの後輩にね、可愛い後輩の星野ほしの葉月はづきちゃん。お辞儀をして、


「可奈先輩、梨花先輩、千佳ちか先輩、おはようございます。ぼ、僕……いえ、私は、正式に学園の生徒となって御指導もまた……ええっと、今後とも宜しくお願い致します」


 あまりの緊張に、あらら、お顔を真っ赤にしちゃって……


「そんなに畏まらなくても、ほら、前と同じで大丈夫だから、ねっ」と、僕が言うと、


「いいえダメです。こういうのはケジメが大事。始めが肝心なのです。僕は甘えちゃダメなんです」と、真っ赤な顔をしたまま、葉月ちゃんは力強く、力説を涙目でするのだ。



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