第三六五回 ――ほぐほぐ。


 お家。そして僕のお部屋。黄色のカラーリングで、波打つカーテン。


「どお? リラックスルームでしょ」


 幸いにして、今はまだ誰も居らず……鍵は僕が開けた、玄関の。

 並んで入った。僕が先頭になって……涙は、うん……止まったみたい。でも、生意気なのが嘘のようにしおらしく……というのか大人しくなっちゃって。



 都築つづき君、お部屋に招いたまでは良かったのだけれど、何て切り出そう。――ほぐほぐなだけに、解してあげないと……なら、まだ先程みたいに生意気な方が良かったような。


 困りに困った時、着信。スマホが『カントリーロード』を奏で踊った。


 もう、こんな時に! と出てみると、あっ……「太郎たろう君?」だったの。


 えっ? 今から来るって? ……ってことになっちゃって。「あっ、あのっ、今来客あるからっ」って、何言っちゃってるのだろうとも思えて……本当に支離滅裂で、初対面の男の子をお部屋に連れ込んじゃっているって感じなので……浮気現場みたいな展開に。


 それでもって『とにかく行くから』って、通話も切っちゃって。


 どうしよう&どうしよう……の、板挟みのような感じになって、アタフタ……



「ほ、星野ほしのさん……その左手首の傷跡……」と、本当に囁く程の声量だったけど、しかと聞こえた。その傷跡――まだハッキリわかるの。一昨年の二学期の前日、お風呂場で切った跡。「……そう、死のうとしたの。前の学校で『いじめ』に遭ってたの」と、言えるようになっていたの。もう客観的に捉えることができるようになっていた。


 ……なら、都築君の制服の下に隠れているであろう痣と、明らかに殴られて腫れている頬……それは虐待なのか、いじめによるものなのか……


「助けて……」と、ポツリと零れる涙。確かに都築君は、そう言ったの。僕に……


 そして、……信じられないことが起きている現実も、僕は知ることになった。無しと確信していたことが、崩れる瞬間を。――学園内で、いじめが存在していたのだ。

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