第三一三回 でも、僕はまだ子供なの。


 ――大人の世界。そして大人の恋は憧れるけれど、僕にはまだ早いと思うの。


 太郎たろう君とは、今のままがいい。

 いずれは……将来は一緒に子供を育みたいけれど、



 …………僕が、太郎君も一緒に大人になってから。


 だから、僕にはまだ、令子れいこ先生のこと理解はしてあげられない。……でも、応援はしてあげたい。生まれてくる子供を祝福してあげたいの。幸せになってほしいの。


 その思いはだけは、同じだから……


 と、そう思い、目が合ってこの教室で、


 令子先生と目が合って、お話してくれたの。……教室では何だから、場所を変えて芸術棟まで。お昼を済ませてから、お昼休みの後半の時間を利用して。



 ――どうしても、お話しておきたいから。


 そう、令子先生は僕に、その言葉を残し、今二人この場で向き合う。


 僕はまだ……病み上がりだけれど大丈夫。お話は聞いてあげられる。以前よりも心は広く強くなった千佳ちか星野ほしのに姓は戻っても、もう以前の僕ではない。


 先生の気持ちに、子供だからわからない部分はあっても、気持ちだけは寄り添うことはできると思うの。僕はティムさんが大好きなように、令子先生も大好きなの。


 だから、


 だから、僕は味方だよ。――と、そんな眼差しで。


 まずは……ごめんなさい。


 その言葉から、令子先生はお話を始めた。二人が付き合っていたのは……三か月よりももっと前。令子先生は僕の知らない一面を持ち、思いのほか繊細で、誰かが寄り添っていないと崩れそうな感じの人。緊急事態宣言の最中のお話で、休校を余儀なくされていた時期だった。先生としてこれから先……という不安の中で、芽生えた二人の恋だった。



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