第三一二回 そして愛おしい人と共に。


 ――その人は、この学園内にいる。その人は、ティムさんの愛おしい女性ひと


 ティムさんが話してくれなかったら、きっと……わからなかったと思うの。でも、包み隠さず話してくれた。僕にも、お母さんにも正直に。そして、ありのままに。



 悪阻……その人の身に現れた。


 もう三か月になるという、身籠ってから。その恋は……その人が最も悲しんだ時に、手を差し伸べたから。そして、それはきっと、葉月はづきちゃんの未来を守るために、旧一もとかずおじちゃんが来世へと向かったから。――僕は、そう信じている。


 人の生死については、わからないけれど、

 旧一おじちゃんなら、そうしそうな気がするの。僕の悲しむ顔を見たくなかったから。


 でもそれは、僕の我儘。


 だけれど、そんな我儘を聞いてくれる、優しいおじちゃんなの……



 そしてティムさんも、優しすぎるくらいに優しい人。三か月前……ちょうど葉月ちゃんが入院した時期、難しい手術が待ち受けていた時期だ。それに葉月ちゃんの病状も進展も早く悪化していたので、難しい上に難しく、成功は望めないとまで言われていたのだ。


 悲嘆に暮れていたのは、僕だけではない。


 令子れいこ先生もなの……

 あまりの悲しさに、辛さに耐えられなかった……んだね。


 身を寄せる男性ひとが、心を預けることのできる男性が必要だったんだね。

 涙を拭ってくれる人。先生である前に、一人の女性だった……んだね。


 この春より、

 令子先生は籍を入れることになった。男の子を身籠っている、順調だそうだ。


 いつからティムさんと付き合っていたの? 僕は、これまで知らなかったの。そこには僕の知らない大人の事情。それはきっと、僕がもっと大人になったらわかるのかな?


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