第二九〇回 ――僕らを見守るお月様。


 湯煙を運ぶ風、窓の外へ……


 湯船に浸かる無邪気な僕らを、そっと見守り陰ながら。……その人は、もしかして太郎たろう君のお母さん? ううん、お月様。窓の向こうから、ずっと僕らを見ている。


 お風呂から上がると、浴室を出ると……そうだった。何もかもが勢い任せで、着替えなんて考えてなく体操着のまま。下着も……リュックの中は、教科書やお勉強のもの。


 肝心な制服は、芸術棟に置き去り。明日、教室に行く前にそこで着替える。



 つまり、着るものがないの。……下着や体操服は、洗濯機へ促されて……僕は今、裸のまま。……するとファサッと、ラージなTシャツを着せてくれた、太郎君が。


「今夜は、それ着てろ。髪乾かしてやるから、ほら」


「う、うん。ありがと」


 と、交わす言葉。パパと、その娘の会話のよう……僕は、まだ子供がいい。

 すると、するとね、太郎君のお母さんが言うの。


「綺麗になったね、千佳ちかちゃん。

 今日は小母さんと一緒に寝る? それとも、太郎がいいのかな?」


「太郎君がいい。太郎君と一緒に寝るの」


 ……と、言ったの。太郎君のお母さん……千夏ちかさんは、微笑んで、


「いい夢見るのよ。じゃあ、お休み」


「うん、お休みなさい」――そして、それぞれの寝室。僕は太郎君のお部屋で、同じお布団の中で眠るの。そこにも窓が……四角い空が見える。月明かりが、


 優しい月明かりが、僕らを照らす。……ほんのりと、ほんわかと。


 僕とは違う息遣い。温かい体温と、薄っすらと汗も感じる。そしてドキドキと……緊張しているのかな? 男の子と女の子が一緒に同じお布団にいることで。でも、僕はまだ子供で、大人ならこの先どうするの? と、パンドラの箱を開ける術は、まだ知らない。


 だから、パパと添い寝する子供のように、僕は眠るの。温かいその中で……



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