第二八九回 ――そして広がる愛の詩。


 そして広い背中。スポンジで磨く、汗は滲む。やっぱり男の子、ガッチリしている。


「ありがと、今度は千佳ちかの番だ」


「うん、お願い」


 スポンジを渡す、太郎たろう君に。スポンジ一つだけなの。……タオルは一切使わないの。


 僕は背中を向ける。すると、するとね、


 そのイメージと異なるほど、繊細で優しいの。優しく僕の背中を洗う……ドキドキを超えそうで、そのまま包まれるほどに心地よいの。髪も、洗ってくれて、


「千佳の髪質、とてもいいなあ」

 と、褒めてくれた。髪を褒められることは、女の子には嬉しいこと。



 ――髪は女の命だから。


 僕は立った。向かい合うの、太郎君の目の当たりに僕の……僕のお腹。太郎君はバスチェアーに座ったまま丁度その位置にくるの。女の子の大切な部分も。


「……千佳?」見上げて僕の顔を見る太郎君。


「見て。ここにね、生命が宿るんだよ……」僕は、お腹に手を当てる。


 太郎君は驚いた表情で、


「お前、まさか……この間ので」と、僕をマジマジと見るものだから、


「あっ、違うよ、将来のお話。

 ……でもね、もしそうだとしたら、どうする? 太郎君は、それでも僕のこと……」


 えっ?


 太郎君? ……お腹に顔を当てる。そして寄せる、抱き寄せる。


「決まってるだろ。一緒に育むよ、お前と一緒に。……生まれてくる子は、もうその時から、パパとママが一緒にいるんだ。お前みたいに小さい頃、パパと一緒にお風呂に入ったことがないなんて言わせないから。ずっと、ずっと一緒だ」


 込み上げてくる。――これじゃまた、笑っていられなくなっちゃうよ。



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