第二八八回 ――僕を見て。すべてを。


 それは先ず、脱衣所から。


 お風呂へと、道程は続く。


 胸には『梅田うめだ』というゼッケンの、まだ体操着のまま此処にいる。学園から病院、そして此処まで着替えることなく、ずっとこの服装。……それを今、太郎たろう君が脱がすの。



 僕が頼んだの。パパと一緒に入る小さな子供みたいにと。


 下から……裸になる。最後に「万歳ばんざい」ができるようにと。

 そして最後の一枚。半袖の体操着の上、裾を捲り上げて、


千佳ちか、手を上にあげて万歳」と言って、太郎君は脱がしてくれた。僕は全裸、一糸まとわぬに姿になった。でね、ヨシヨシしてくれた。頭を撫でる太郎君。すぐさま太郎君も服を脱いで黒から白……ではなく肌色へと色を変えて、僕と同じく全裸になった。


 手を繋ぎ、浴室へ。

 明るい裸電球の光、裸の僕らを照らした。



 僕の……まだ幼い女の子の体。これでも少しは十四歳の女の子の体に近づいている。芸術棟では『天使のうたたね』に描かれている裸体。……太郎君には何回か見られているけれど、一度や二度ではないけど、やっぱり恥ずかしい。全身が火照る……火照るの。


 でも、でも……「見て」と、僕は言うの。


 最愛の人にもっと知ってほしいの。僕の……梅田千佳という女の子の一部始終を。太郎君はお湯をかける。シャワーを用いて僕の裸体に。頭の先から足の先まで……


 そして太郎君の裸体を見る。目の当たりにある。


 お湯が流れる裸体。僕とは違う男の子の体。芸術棟では『ダビデ像』になっているけれど、本当の……裸の太郎君。目の当たり……ある種の興奮が目覚めてくるようなの。


「太郎君、背中流してあげるね」


 と、僕はきっと笑顔だったと思うのだけれど、そう言っていた。



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