第二八五回 ――夢? 夢ではないの。


 それは、今日の出来事。……ユサユサと揺れる、揺り籠のよう、喩えるなら。


 それは、それはそれは、広く大きな背中……

 小さい頃に夢見た、おんぶ。パパの背中……


 って、太郎たろう君?


「おっ、お目覚めのようだな」


「えっ、僕どうしたの?」と、辺りもキョロキョロ……あらら、見慣れた景色の一つ。


 私鉄沿線から、もうすでに最寄りの駅の付近をポツポツとね、歩んでいるの。


「眠ってたよ、気持ちよさそうに」

 と、梨花りかがニッコリと、その隣から。


「大丈夫、梨花みたいに大きな鼾で、パンツ丸見えじゃなかったから」


 と、可奈かながニッコリと、そのまた隣から……去年、三人で行ったプラネタリウムの梨花の様子。だけれど「スカートじゃないでしょ、千佳ちかは今日、短パンだから」と、顔を赤くして梨花は言う。そしてまた太郎君に「違うから、千佳みたいにスヤスヤだから」と、激しく弁解……で、「ちょっと可奈、まるで僕がいつも寝相も悪くて鼾も……そんなんだって、太郎君が誤解しちゃうじゃない」と、さらに弁解で……そんなに弁解しなくても大丈夫だよ、梨花。ここに「僕という証人がいるじゃない、スヤスヤと、とっても可愛い寝顔だったよ、梨花」と、僕はフォローしてあげた。


「でしょ、持つべきものは姉思いの可愛い妹だね」


「日頃の行いから、あなたが千佳に圧力かけて言わしてるんでしょ、梨花」


 まあ、そんなやり取りが、梨花と可奈の間で繰り返されるけれど、徐々に僕の耳から遠ざかる、太郎君も一緒に……だから、もう二人の世界。


「ねえ、太郎君……」


「ん? どうした、千佳?」


 そしてギュッと、身を寄せる。胸と背中が……「今晩ね、一緒にいてくれる? お泊りしたいの、太郎君のお家に」と、僕は言っていた。抑えられない気持ち、それ故に……



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