第二七四回 茜色は夕映えのお空。そして夕映えの二人。


 そしてまた……


 火曜日の燃える色、綺麗で尚且つ旋律の走る色彩……心に残る。



 僕は、葉月はづきちゃんを送る。葉月ちゃんのお家まで。車椅子を押す、葉月ちゃんの乗る車椅子を。……凸凹による振動に気を遣う。小刻みに揺れる車椅子。


 それでも、葉月ちゃんは終始笑顔。


 そして小さな約束……また明日と。

 刻む時間、玄関のドアの向こうへ、葉月ちゃんは吸い込まれる。



 ……そして歩く、僕の、僕らの帰路を。

 僕ら……それは影法師。ううん、奇跡を思う裏腹に……


「大丈夫か?」と訊くの、きっと僕に。……確かに僕に。二人だけだから。


「うん、大丈夫。明日も頑張らなきゃ」

 と、元気いっぱい答えた……はずだったの。同じく帰路を歩む太郎たろう君に。


「大丈夫じゃないよ、お前……

 その顔は何だ? 俺は、お前に腹が立ってるんだよ」


「えっ?」と、聞き間違い? 僕は自分の足元から太郎君の顔へ視線を移した。


「お前、何カッコつけてるんだ?

 一人だけで何もかも背負ったつもりで、悲劇のヒロインでも演じてるのか?」


 その言葉は太郎君のものなの? そう思えるほど、信じられない言葉だった。


「……酷い。何でそんなこと言われなきゃいけないの?

 僕は、僕は……」――込み上げてくる。怒りだけではなく悲しみまで一緒に。


「葉月ちゃんのことはな、お前だけの問題じゃないんだ。

 ぶつけてみろよ、俺に。お前の怒りも涙も何もかもを」と、太郎君は、僕の前に立ちはだかるように言った。そして込み上げるのは涙。溢れ溢れんばかりの涙だった。



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