第二六四回 ……大丈夫。『黒歴史のようで白歴史』だから。


 ――ヒントはそこにあった。思い出すこと。それは歴史を意味した。



 ここには、それがある。


 物語には、テーマがあるように、僕は薄々ながらも、それを欲した。


 二階のアトリエ。外からの光が差す場所だ。燦々と降り注ぐナチュラルな光。明るくて白い世界を創り上げたの。僕らはもう、ここにいる。僕らは今ここにいるのだ。


 学園の正門を潜り、芸術棟の青くスケルトンな入口も通過し、階段を上がり二階。かつては開かずの扉だったのだけれど、今はすっかりオープンな扉。



『鍵などもう……

 その存在をも消していた』



 この度をもって、結ばれる。――過去と未来が現在で合体だ。


 だからこその歴史、もう黒くはない。これよりは白く、白く映える。かつて僕のハートを射止めた物語のように。二人の女の子がこの場所……ここ芸術棟の二階の通称・アトリエから始めた美術部。描かれた絵は二枚、未完成が……百号のキャンバス一枚。



『あと、少しだったそうなの。

 瑞希みずき先生、長い時を経て止まっているこの絵に未来を、見せてあげて』



 そう願っているの、令子れいこ先生は今もまだ。……するとね、「こらっ!」


 と、怒鳴り声。僕も梨花りかも呼吸ピッタリに『ビクッ』となるけれど、それ以上は驚かないよ。振り向くの、振り向けば令子先生はそこにいる。いつものスタイルで、少し息も荒くて、少し笑顔も薄れて鬼気迫るような翳りを、一糸まとわぬ姿の上に染まる絵の具とともに漂わせていた。けれども、僕らは戦うのだ。――この先へと進むために。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る