第二三二回 お祖母ちゃん。僕にとって初対面。


 ――思いもしなかった対面。


 先程までのことを思うなら、怪しいと思うのかもしれない。けれど、僕にはそう思えない。お母さんの名前を知っている、とっても優しそうな人だもの。……きっと潜在的に秘められる理由は、様々な方向からクロスしながらも沢山あると思うけれど、


 星野ほしのの血かな?

 所謂血脈かな?


 疑わない……ううん、疑おうと思わない理由は言葉をも超え、もっとも、

 もっともっと神秘的なものなのだ。



「何々? どうしたの、千佳ちか?」


「いいから、こっちこっち」


 と僕は、声も弾ませて、台所にいたお母さんを引っ張ってくる。あのPCの待つ僕のお部屋まで。そしてお母さんは目の当たりにするの、そのPC画面。



 ……するとね、


「お、お母さん……」


 どれほど見つめて出た言葉だったのだろう。お母さんの口から、その言葉が出たのは。


 今お母さんの目の当たりにしているものは、あくまでPC画面。されど、お母さんが目の当たりにしている人は、お祖母ちゃんなの。お母さんのお母さんだ。


 その言葉……精一杯の一言で、この瞬間さえ募る思いが凝縮されている。


 それも、

 それもきっと溢れて、


千尋ちひろ、元気そうだね」


 と、そっと包み込むような……

 フワッとする優しい言葉と、優しい微笑み。



 ごくありふれた言葉なのだけれど、心が和むの。僕が十四年生きてきた中で、これまでで初めての、海のような広大なる優しさ……というのか、ポロポロと……海のように枯れないお母さんの涙が、僕の心に熱く、そして深く迫ってくる。


 きっとこの瞬間は、


 お母さんにとって、子供に戻る瞬間……

 お祖母ちゃんとの、二人だけの世界……


「ごめんね」


 と、画面に縋りついて大泣きするお母さん。僕には衝撃で。



「あらあら、千尋、そんなに泣いちゃ……

 千佳ちゃん、どうしようって困ってるでしょ」


 それもお構いなしで、


「会いたいよお、お母さん」


 と、お母さん。やれやれ……というような趣で、お祖母ちゃんは、


「本当に……千尋の甘えたさんは相変わらずね。新一しんいちと一緒に暮らすって言って出て行った時は、頼もしくさえ思えたのに。これは本当に、一緒に暮らさなきゃ……ね」


「えっ?」


 と、疑問符。声にしたのはお母さんだけではなく、お母さんの後ろにいる僕も一緒。


「お、お母さん?」


 ビックリして涙が止まっちゃったのと、それ以前に、泣き止んだみたい。お母さん。


「本当なの?」


「新一から聞いてなかったの? 近々新居に移るそうじゃない。新一と千尋、ティムさんだったかな、それに美津子みつこさんも、千佳ちゃんも、それにもう一人の子……」


梨花りかだよ。僕にソックリな子だよ」


 と、僕はさりげなくお祖母ちゃんに言う。お祖母ちゃんは笑顔の上にニッコリと、


「そうそう梨花ちゃん。

 ありがとうね、千佳ちゃん。今度は、お祖母ちゃんもずっと一緒だからね」


「うん!」


 里帰り叶わぬこの夏休みだけれども、新居に移るのを機に一緒に……という意味。



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