第二〇三回 その前に僕たちは、観覧車に乗る。


 ――よく考えたら、いいのだろうか?



 三蜜……僕と太郎君は所謂密室で、同じ、まあ室内で、今ここにいる。地上二十五メートルの世界観。それでもまだ上昇を続ける。静かに軽やかに……


 先程のジェットコースターとは、また違った爽快感。あの頃・・・は退屈のように思えたけれど、もっと奥が深くて、二人だけの息遣いを、空間を。景色も楽しむの。


 だからこのゆったり時間、とても尊いの。


 僕はトーク苦手だけれど、

 太郎たろう君と一緒だとね、色々話しちゃうの。


 例えば、こんな具合……


「ねえ、僕のこと、初めは梨花りかと間違ってたでしょ?」


「ん? どうした? 急に」


「だって、無理もないから。その方が納得いくの。僕とあの公園で初めて会った日、きっと、梨花と間違ってたんだね。だから、あんなに構ってくれてたんだね」


「二年前の、六月十八日の地震の日か?」


「うん」


「お前の言う通りだな、梨花姉と間違ってた。……でもな、違うって思った。仕草も色も匂いも別のもの。やっぱ梨花姉は梨花姉、千佳ちかは千佳だよ。……梨花姉は、やっぱり俺には姉貴的存在で、千佳とは、やっぱり違うんだ。恋人になれるのは、それはな……」



 そして奏でる鳥たちの音。

 暑い中でも、羽ばたいてゆく未来へ。


 やっぱり、また泣いちゃった。でも、……唇を重ねる僕たち二人。


 それから、小さな約束もしたの。僕がパパに自転車を買ってもらったら、僕が自転車に乗れるまで運転できるようになるまで、転ばないようにと、僕を支えてくれるって。



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