第百八十七回 それは通り雨。出発には上がるよ。


 ――そうなの。

 ベランダのガラス戸を叩く雨は、もう上がって、快晴な青色に広がる世界。



 そこが、僕らの目指す場所なの。


 四連休の終わりを告げる始業のベル。それは、『ウェストミンスターの鐘』


 一時期は『アマリリス』だったけど、また戻ったそうなの。僕は、やはりこの調べの方が馴染み深い。ほらほら、とってもの緊張感。いかにも学校特有の緊張感だ。


 ……でも、


 もう今までと違うよ。


 四連休の向こうには、わりと普通な風景。今も昔も変わらず、賑やかな、息遣いとお話しする声、物音と……確かに、この様な一面は、以前もあった。



 ……本当は、前の学校でも、

 辛い時間ばかりではなかったのかもしれない。


 ほんの束の間でも、あのウメチカ戦の二回戦にあったような、美千留みちるとの、裸の心が重なる瞬間。壁が壊れた瞬間が……今だから言えることだけれど、ごく普通な、みんなと同じように、その場面にいたような……その様な兆しが、記憶の片隅に見える。


 そんなような、気がしたの。


千佳ちか


 と、呼ぶ声が聞こえる。ハッとなる僕。梨花りかは笑顔で僕の名を呼ぶ。可奈かなも一緒だ。


 向かうは理科室だ。……ということで、


「梨花、大丈夫なの?」


 それは、以前とは見違えるほど、


「うん、大丈夫。ウメチカ戦での千佳の勇士を見てたら、僕もできるんだって……挑戦できるんだって思えるもの。『苦手だった理科の時間』が、大好きになる瞬間だよ」と。



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