第三十一章 そして葉月へと繋がる、今この時を。

第百七十九回 ……そう、僕らは今。


 ――ここにいる。……朧気、或いは夢現では決してなく。


 五感を通して感じる。


 太郎たろう君の体温。僕は、お姫様抱っこをされたままだから。



 ここは紛れもなく会場の中心といえる場所。ここを中心に『ウメチカ』は、東西南北に分かれ区別されている、その様な場所だ。……今、語彙力を失いつつも、稚拙が極まれる渦中に於いても、それも関係なしに近づいてくる。……そう、目の当たりまで。


 僕と……


 ううん、その人……その男の人は、太郎君の前まで。そして一言、言うのだ。


「……大きくなったな」


 と、その一言を。


 その傍らには梨花りかもいて……天使の趣の梨花が、笑顔で紹介してくれるのだ。


 いつもとは違う趣の笑顔……


 いつもの可愛いの中にも垣間見える、女性としての艶やかさ。……きっと、ウメチカ戦が梨花を、少し大人の女性にしてくれた。……本当に、本当にヒロインの風格。


 同じ女として嫉妬するくらいに、


 昨日までは同じ……だったのに、僕よりもずっと大人で、綺麗になって。何だか、何だか置いてきぼりにされたような気がして。ブーッと、あっ、それでも若干のね、


 ふくれ面。……でもでも、梨花は言う。


千佳ちか、ふくれ面しないの。

 あとでいっぱいいっぱい褒めてあげるから。今はね、太郎君と大切なお話があるの」


 ――その男の人が。


 太郎君は解く。お姫様抱っこ……僕は地に足を着ける。涙も落ち着いてきた。

 太郎君も。そして続けて言うのだ、梨花が。太郎君に。


「太郎君、ビックリしたと思うけど、この人は太郎君のパパなんだよ」――と。



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