第百八十回 いつの間に、こうなっちゃったの?


 ――驚き、驚愕、狼狽……と、ワードを並べつつも。



 そのいずれにも該当しない……ともいうのか、該当は少なからずしているというべきなのか、とても中途半端な状態で、涙を拭くのも忘れるほど、あまりに突然なことで。


 まさに今、僕の目の当たりに、


 太郎たろう君のパパ。……この人が。


 太郎君に似てスマートなフォルム。黒縁の眼鏡まで同じように四角い。身長は太郎君より十センチ以上も高い。例えばそう。新一しんいちパパと同じくらい。……でも、問題はそこではなくて、太郎君はお父さんと……もう十何年と会ってないの。



 僕もそうだったの。パパの顔を知らず十何年……すぐには受け入れられなかったの。我がことになるとそう……梨花りかのこと、励ましていたのに。その心の傍らでは……


 だから太郎君、怒りんぼだから、


『ふざけるな! 俺と母さんのことほっといて、テメーは……』


 と、第一声で言いそうだけれど、涙も零しながら。……そんな映像ビジョンしか見えない、そのはずだったのだけれど、太郎君は……あれ? 怒ってないの?


 それどころか、梨花に……


「ありがとな、梨花姉。父さんのこと、教えてくれて」


 と、感謝の思いを伝えている。……伝えている? じゃあ、梨花はいつ、太郎君に教えたというの? 梨花は……梨花は太郎君のパパと、すでに面識があったというの?


 僕の……


 僕の知らないところで。僕の知らない梨花がいるようなの。


 もしかしたら……


 もしかしたら僕が再会する前から、梨花はもう太郎君に会っていたのかもしれない。そして……太郎君のパパとも。だったら太郎君が昔、小さい頃に会っていたのは……



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