第百四十九回 強くなるための激闘のテーマ。昨日よりもフォルテッシモ。


 ――十六夜。もしかしたら意味は違うのかもしれないけれど、今日は十六日の夜。



 雄々しくも勇ましく、


 トランペットの音色が、僕の脳内を駆け巡る。そして、とある時代劇の……この間やっていたやつの『激闘のテーマ』をリピート&リピートで、ユーチューブで……すると、二分程の曲を繰り返し繋げた二十分バージョンと遭遇して、ずっとずっと聴く。


 また泣いちゃったけれど、


 泣いていたことも忘れて……幾度もトライ!


 顔は濡れたままだけれど、三十六インチの画面……PS4・5のモニターに集中し、繰り広げられる太郎たろう君の猛攻、そして「そんなんじゃない! もっと早く、獣のようにもっと鋭くだ!」と、叱咤が注入される厳しくも温かい激励。


 ……その光景、目の当たりにして、


 心配そうな表情を浮かべる梨花りか可奈かなだけど、グッと見守る。口を挟まず。


 確かに最初は冷たいと思った。


 もっと優しい言葉を投げかけてほしいと思った。……思っていた。でもね、太郎君も梨花も可奈も……みんな、誰よりも僕のことを理解している理解者。


 僕は、この『激闘のテーマ』をBGMとし、


 昨日よりもフォルテッシモに、我が心の志気を高めて行くのだ。


 そして舞台で演奏するように、


 僕と太郎君の呼吸を合わせて、心を重ねた必殺技を身に着ける。……だから、だからこそ時迫る。決められた開催日に、幕は決して稽古不足を待たない。


 ――そう思った瞬間。


 僕は、……僕は見えなかったものが見えた気がした。それは一筋の光! 太郎君の息遣いがハッキリ聞こえる。とても心地よく感じられて……確実に僕を包んで、僕のことを受け止めてくれる。「よし千佳ちか、その呼吸だ」と、太郎君は激闘の最中、褒めてくれた。



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