第百四十回 題して『天使たちのうたたね』


 ――そして夕日に映える町の情景。歩むカントリーロード。……今はもう帰り道だ。



 ある種の脱力感……されど、込み上げる笑み二つ。


「えへへ……」


 と、顔を合せ笑う僕と梨花りか。小さな頃にできなかった手も、今は繋いでいる。


 交わす言葉は多く存在しないけれど、手から伝わる温度と、スキップのように弾むハート。明日は十三歳の最終日となるけど、日曜日だから……今日が事実上の最終日なの。



 ――それは数十枚を描いたスケッチブックから、一枚のキャンバスへと。


 僕たちと同じように令子れいこ先生も、

 ナチュラルな、何も身に着けないスタイル。そして最初から今まで、ここアトリエで行われた。……きっと仕上げまで、この場所で行われることだろう。例えるなら、この絵には『水と戯れる』という描写はなくて、『森林浴』という……初日、僕たちをリラックスさせる言葉は、僕たちが思っている以上に深くて、テーマとして繋がっていた。



 飾られる観葉植物たちの意味は、そこにあったのだ。


 誕生を意味する二人の天使……

 それは、それは転寝……眠っている間に描かれていた。一枚のキャンバスに。


 令子先生のスケールの中に於いては、百号も画面狭しで、いっぱいいっぱいに描かれていた。今はまだ線で奏でるソロだけど、そこでアンサンブル……深みを入れる。


 重なる想いが、深みのある絵を創り上げる。――それは僕の役目、と令子先生は言う語る。二学期には、このアトリエで完成してね、君たちを迎えてあげるよ。最高の『おもてなし』で、心の底から笑えるようになった君たちを、僕と一緒に祝福するからね。


 そして『四駅』……ここから僕らは、電車に乗る。すると、声が。


千佳ちか、梨花お姉」と、僕らを呼ぶ声、太郎たろう君の姿がそこにあった。



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