第百三十九回 十三歳の、最後の週末。


 ――物語の進捗に合わせて、僕らは真っ白なヴェールに包まれ、新たなる章へと!



 って、そんな都合のいい進展はあり得ない。


 エピソードはまだ……


 終わっちゃいない。それが証拠に今、今も目の当たりにある令子れいこ先生は、僕らを描き続けている。最終的に仕上がる絵は一枚……五十号の二倍で、百号のキャンバスいっぱいに描くと言っていた。そこに至るまでの日捲り、それ以上に何十倍もの枚数を、もうすでに令子先生は描いてきた。令子先生も、僕らと同じ生まれたままの姿……


 だけれど鉛筆の汚れだけは、滴る汗に滲み、僕らとは違う化粧となる。



「次はこうかな」「じゃあ次はこうしてみて」


 と、思い描く完成の図へと、何度もコンティニューするように紐解き……僕らもまだ知らない、全裸の……まだその深い場所にある裸の心に至るまで見ようと。


 次という前向きな言葉が繰り返され、


 いつしか僕と梨花りか……白い顔にほんのりと、赤く浮かばせながら綻ぶ。出会ってから恐らくは初めて見る表情。或いは記憶の彼方……まだ産声上げるその頃と。



「いいね、いいね」……と、令子先生の躍動する声。


 リアルは時として、ファンタジーを生み出す場合もあるのかと思えるような光景だ。


 晴れ渡る青空の下、そのイメージは僅かなもので、


 木曜日は雨。決戦をイメージする金曜日もまた雨。……そして土曜日。湿り気のある曇り空……だったけど、その中を僕と梨花は登校した。基本土曜日は休日なのだけれど、この日は午前中のみ授業が行われ……十一時と、少し余裕をみての終了だ。


 そこからすぐさま、アトリエ……


 お昼はここで、みんなで食べようと話していたの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る