第百三十五回 それは、告げること。


 ――密告よりも、もっともっと堂々としたものだ。僕らは小さな胸を張った。



 想像するならば、それこそ見分けがつかないかも。この間、梨花りかが『もの想ふ乙女のように』伸ばしていた髪を、夏向けに切って……切ったから僕と酷似する。いや、それ以上に量産型を思わせるボブ。身長も一緒、ミリ単位まで。体重は……それ内緒! ちょっとだけ、少し僕は筋肉で、梨花はお肉が……ホント内緒! 今、少し睨まれた。僕たちを見分けるのがそれと言ったら、梨花が顔面を紅潮させて怒るの。



 そう思いながら、もう学園内。


 梨花とは、ずっと二人で歩む。教室には、まだ行かずに職員室……

 いやいや、きっとあの場所だ。――芸術棟。そこに令子れいこ先生はいる。


 駆け上がり……の反対で、じっくりとゆっくりと上る階段。向かうは、アトリエのある二階の広い方? ここは直感で三階。スモールな方のお部屋。


 その手前、踊り場から見える風景は、陰影だけの世界。窓の外の雨を強調することになるのだけど、差し込む光は乏しく……極端にいえばモノトーンの空間。その中に於いて僕は、心にカラーを抱き、開ける。そのドアを! 確かに、令子先生はいた。


 そこにいたのだけど、透き通る白い肌……普通なら見えない部位まで見えて……それよりも左胸に大きな傷跡……すると、令子先生はニッコリとニコちゃんマークで、


 あくまで堂々と、いつもの通りに、


「見られちゃったね。でも、これは僕が生きてる証……」と言うのだ。


 心臓の……それは心臓の手術の跡。

 そして今、ここに令子先生がいるという奇跡を物語っていた。


「でも令子先生、何で裸なの?」と、僕ではなく、僕を越えて梨花が訊いたのだ。


「実は恥ずかしいけど転んじゃったの、雨の中。下着まで全部濡れちゃったから……どうしようかなって思ってて、そこへ君たちが来たということなの」と、そう答えた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る