第百三十四回 ねえ、それって?


 ――奏でるのは雨音。主な楽器は電車のボデー。そして下車をするなら、屋根と舗道と傘……エトセトラのアンサンブル。午前の風景に似合うクラシカルな演奏。


 色彩で例えるならば、


 セピア。そのイメージ……そこから、さらに耳をすませば、雨音たちが奏でる『カントリーロード』……エブリの名曲。僕の大好きな曲だ。もちろん、そのアニメも大好き。


 もう十回以上は、すでにカウントされる。それと同じくらいのレベルで、

 僕の脳の中では、激しくリピート。



梨花りか?」と、聞き直そうとする僕。


「僕と千佳ちかは双子だったのに……十三歳になって初めて会った。普通なら生まれた時から一緒だったのにね。……だから、だからね、僕も残したいんだ。千佳と一緒に、十三歳の肖像画を。……だからね、一緒に、いいかな?」


 梨花、目に涙が浮かんでいるような気がした。

 頬は少し赤くなっているけれど、それ以上に本当は、言いたいことがあったのかも。


 ……でも、伝わるのか? この雨音の向こうにあるような、僕の言葉たち。


 それでも梨花は、懸命に、切羽詰まる精一杯の言葉で、僕に答えてくれる。



 ――ねえ、それって?


「いいの? 僕なんかと一緒に、あの絵のように描かれるんだよ」


「もう一度……『僕なんか』なんて言ったら承知しないよ。千佳だからだよ。千佳が一緒だから描いて欲しいの。世界で二人で一人なんだよ、僕たち……」


「ありがと、ありがとう、梨花……」


 ぎゅっと、ぎゅっと――それは、さっきの電車の中で、時は少し前のこと。


「ちょ、ちょっと千佳、周りの人見てるから、ね、ねっ?」


 タジタジな梨花だったけれど、僕にはもう、周りは見えておらずに二人だけの世界。



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