第百三十三回 あくる朝、その日は雨降り。


 ――個性の数が舗道を彩る。それは傘の列。最寄りの駅へと吸い込まれてゆく。



 お空からは恵みの雨……


 僕の場合は雨女と思いきや、梅雨明け宣言もまだの有様。そのように特定するには困難極まりなく、下手すると、世の中の女性が雨女となってしまう。……まあ、それはさておき閉じる傘、個性あふれる色とりどり。例えるなら、まず僕から……黄色。対する梨花りかは桃色……やや紅が強く。そして可奈かなは……今日はお休み。


 来たる電車、ゆとりを持ち乗り込む。駆け込み乗車は禁止……以前に可奈に言われたことがあるから。向かうは通称『四駅』という名の四駅目。


 方向は『ウメチカ』に向かう方面。瞬間、ウメチカへ行きたいと心誘われたけど、まだお預けだ。せめて文月、お誕生日より向こうだけれど、この月の下旬に行われる『℮スポーツ・ウメチカ戦』その時その日までは……そうなの。


 無事に、

 予定通りに開催されると決定した。そして僕らは予選も通過し、出場権を手に入れた。


 それに合わせて僕は、

 ――心から、心底から笑えるようになりたい。その思いはもう、溢れている。


『僕の、十三歳というこの年は、まさしく運命の年。

 新章たるこれからを飾るために、原点を忘れないために、残しておきたいの』


 それは、……それは言葉となる。


「梨花……あのね」


「ん?」


「僕ね、……その、残したいの」


「それは、令子れいこ先生が描いてくれる絵のことだね。……千佳ちかが、僕にそう言ってくれるのを待ってたんだよ。僕もね、千佳に言いたいことがあるんだから」……と、周りに乗客がいるのも忘れて二人の世界。その渦中、梨花は穏やかな趣で、そう言ったのだ。



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