第百二十二回 同日、午前八時少し前。
「……いないの」
と、僕は答える。――場所は児童公園、前回の続き。目の当たりに『泣いてるけど、お父さんに怒られたの?』と、問う男の子が、僕の……当時は私の顔を覗き込んでいる。
当時は二〇一八年、まだ平成の三十年。
まだ僕の一人称が『私』だったこの日、まだ小学六年生……
まだその男の子の名前を知らない時だ。……初めて見る顔、クラスにはいない子、じゃあ学校では? 思えば……思い浮かばないの、クラスメイトの顔。一緒に集団登校している子供たちの顔さえも……見えるのは、見えるのはもう自分だけ。
そう思うと、何だか悲しくて。もう泣いているのに、さっきよりも泣けてきて……
「ご、ごめん、訊いちゃいけなかったね」
と、言ってくれるその男の子は、悪い子ではないようで……
すると、揺れ? ……揺れたの。
直立する大きな時計も、うねりながら午前八時少し前を示していて、暴れるブランコの傍らで地に足を着けて立っていたけど、もう立っていられないくらい揺れ……地面そのものが――「あぶない!」と、その男の子が転びそうな僕を、抱き留めてくれた。
……そうなの、そのまま転ぶと、
転んでいたら、僕は暴れるブランコに顔を殴打していた。
「怖いよお……」
と、僕は揺れと同調しながらも、震えが止まらず抑えられないまま、その男の子がしっかりと、それでも優しく抱き留めながらも「大丈夫、大丈夫だ」と小声だけど、しっかりとハッキリと、僕を励ましてくれていた。ぎゅっと、ぎゅっと僕も……そんな最中、結局は地面に転がるがショックはなく、怪我もないまま、揺れは治まる。近所からガラスの割れる音や物が落ちる音とかは響いてきたけど、それでも僕らは無傷。
「怪我はない?」と、その男の子は、優しい趣で僕に問う。その顔はとても近く。
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