第百二十一回 あれから、もう二年。


 ――今日は六月十八日。しかも『令和』を迎える前の、まだ『平成』だった頃。



 僕は、まだ『私』が一人称だった。


 そしてまだ……ランドセル。深紅のランドセルを背負って集団登校。現在のようなブレザーでもなく、緑または赤リボンのセーラーでもなく……私服。若干汚れたワンピースや少しすり減った半ズボンなど……そんなのしかなくて、周りの子……男の子や女の子も関係なく「汚い」とか「ダサい」とか……もう一日のスタート、


 ――おはよう! と、爽やかな挨拶もなく、


 それさえも程遠くて、お喋りを楽しむ輪の中へは、とてもとても次元の違いを感じるほどで……その日、僕は登校するのが嫌で……それでも「学校行きなさい」と言うお母さんが悪魔に見えて、喧嘩して引っ叩かれて、お家を飛び出した。……割と早い時間だ。


 学校にもお家にも……


 いたくなくて、近くの児童公園で泣いていた。すると、何々? 僕の座っているブランコの、その隣のブランコに……男の子が座った。何だか、何だかね、……じっと僕を見ている。ちょっと怖いというのか……違う種類の、気持ち悪いという部類なのか……


 場所を変えようとも思ったけれど、


 何だか、逃げるような感じで嫌で、それ以前に……(ここは私の場所だよ。何でこの子のために場所を変えなきゃいけないの?)と思って……さあ、ここから我慢比べだ。


 この児童公園の前を通る人たち。その中には、僕と同じ学校……小学校へ向かう児童の群れもあったかと思う。他人事と思おうとしたその時に、その子は……


「学校は? 行かなくていいの?」と、声をかけてきた。


「……嫌い。行きたくないもん」……そう答える。少し沈黙をするけど、忽ちは

「泣いてるけど、お父さんに怒られたの?」と、その子が問うの。ただでさえ触れたくないことなのに、お喋りも今はしたくもないのに、しつこくて――思えば、それが出会いだった。


 霧島きりしま太郎たろう君との出会いの一コマ。この後、僕らは忘れ得ぬ出来事に遭うことになる。



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