第百六回 そして、忍び込むと。
――芸術棟へ。
人の気配は……ないと思われる。階段上がれど、ひんやりするばかりで話し声など何もない……音一つも存在しない感じ。でも、自分の息遣いだけはハッキリと存在する。
それは、それだけはわかる。
それが、確かなる自分の足掛かり。自分を見失わないための……
ぼんやりしていた自分の見るもの、感じるものが、覚醒にも似たような感じで……徐々にハッキリしてくる。視覚に聴覚と、五感全て……自分のものとなるそんな感じ。
本当の意味で我に返る。……そう、返ったのだ。
そして我ながら思うの、酷い格好と……誰にも会わず見られずで幸いと思っていたら、
「こら!」
と、迫力ある怒鳴り声。……ソプラノ? 女性のヴォイスと思われ、「ギクッ」という表現が先の、その次に振り向き振り返りで、見るに見て二度見、三回目へとの勢いで、
……声を、僕も声を発する、精一杯にと。
「
と、その人の名を、僕は声にした。――その人の怒鳴り声は、シチュエーションも関係するのか、背筋が凍るほど怖かったけれど、ニッコリと、ニコちゃんマークのような満面な笑顔。まるで「笑顔の見本はこうだよ」と、言わんばかりの特徴ある笑顔。
そんな中にあっても、
「
と、怒られる。ある意味、
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