第百七回 そこは、開かずのドア……だったけど。


 ――此処、芸術棟でのお話は、まだ続く。



 その中でも日差しの当たる場所、階段上って二階の……広い方の室内。今はまだそこを舞台にお話は展開される。僕と令子れいこ先生以外、誰もいない。


 この室内……だけではなくて、芸術棟という建物の中全てに於いて、今は二人以外に誰もいないと……令子先生は、そう言っていた。それは、チャイムが鳴るまで保証される。


 将又、次の授業までかな? 今は授業中……梨花りか可奈かなは今、僕のいない教室で授業を受けている。授業中、そうね……確かに、此処に来るまで、誰にも会わなかったはずだ。


 そして令子先生は、


 僕に……条件を与えた。そう、条件があるの。



 または交換条件? 先程の令子先生の「こら!」の秘密が、そこにある。それはそれは此の室内にある。ある意味、無限に広がる不思議な空間で……去年は、まだ此の学園の生徒ではなかった頃、……そう! 演劇部。瑞希みずき先生の率いる演劇部が、四年ぶりに『八月二十四日のふるさと祭りのイベント』で劇を行うのに、此処を部の拠点に、または部室に使用していた。それに僕は参加することになって……その頃は、梨花へのお詫びのためだけれど、(……そうなの、僕のために梨花が警察に補導されたからなの)


 ……可奈も一緒に、ひと夏も過ごしていたのに、この向こうの、さらに向こうへと繋がるお部屋の存在に気付けなかった。今目の当たりにそれは、


 ――その入り口。


 開かずのドアという、その存在自体に。恥ずかしながら、今日初めて知った。


 令子先生により、そのドアの向こうへと繋がる世界を……その秘密の世界を見せて頂けることを条件とし、僕は次の休み時間までに保健室へ戻ることを約束する運び。


 理由は単純明快。――僕を保健室へ連れて行ってくれた梨花と可奈が、次の休み時間に保健室を訪ねるのは可能性として大。僕のこと心配して捜すといけないからだ。



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