第六十五回 まあ、ここでは何ですから。


「行きましょ、僕のお家へ」


 ……で、追記するなら「そこでゆっくりお話しましょ」



 とてもお上品な口調。それでも一人称は『僕』のまま。


 霧島きりしま太郎たろう君とは同い年だけど、お客様としてお招きするのだから……そこは女性としての嗜みなの。女性――そう。女の僕から見ても、その時の梨花りかは、


 普段とは違って嫉妬するほどの大人の色気……本当に綺麗だった。……あれ? 僕のお家って? ――「ちょっとちょっと、梨花」「なあに?」「僕のお家って、太郎君を梨花のお家に連れて行くの?」「へ? そんなの決まってるじゃない、千佳ちかのお家だよ」


 あ、あの……


 いつの間にか僕のお家は、梨花のお家になってしまっていた。そしてもう、身も心も完全に、僕のお姉ちゃん。太郎君にさえも、威厳を撒き散らしているように見える。


 間違いではなくてね、理にも適っているのだけど、


 何というのかな? ……梨花は意外とSかも。将来旦那さんになる人大変だね。



 なんて思っていたら、ある疑問符。


 辿り着いてしまった、僕が言う前に……ここは、ちょうどドラッグストアの裏。


「千佳、ここって表札『梅田うめだ』だけど、お前って確か『星野ほしの』だったよな?」


「太郎君、それはね……」


「……そうだったのか、お前ついに養子に出されたんだな。うんうん、でもそれで

お前が幸せなら、それでいい、お前の名字が変わっても、お前はお前だから。……何があっても俺、今度こそお前を守ってやるから、家だって離れてないし、すぐにでも駆けつけてだな……」と云々で、僕は僕で「あの、太郎君?」と、声をかけても聞いてくれなくて、太郎君の妄想は広がるばかりで、梨花は梨花で何も言えないまま唖然……って、


 ――ちょっとちょっと、さっきの威厳はどうしちゃったの? と、思うばかりだ。

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