第十五回 ありがとう!


 ――今宵、明るい月のように、冷めない余韻。



 シンデレラの時刻までは僅か。


 三月三日も、もう今回のエッセイを更新したらエンディングを迎える。

 四角い窓を眺めて夜の慕情……先刻までの『ひなまつり』の、まるで『仮面のつかない舞踏会』のような、ビッグなパーティーの模様が脳内に蘇る、鮮やかに。


 会場は、令子れいこ先生宅。


 お伽話に出てきそうな豪邸だ。……令子先生の氏名は西原にしはら令子。自称『天使の地』から帰国したバイリンガル。よわいは三十……前担任の友人関係だそうだ。それも、百合百合のかなり深い関係にまで至っているそうな――と、あくまで可奈かなの情報によるものだ。



 まあ、少しばかりミステリーな部分があった方が良いと思い、

 令子先生のプロフィールは段々に……ということで、開かれた『ひなまつり』模様へ移ると、やっぱり梨花りかのことが中心となる。――そう、親子の会話にあった。


 大きな雛壇ひなだんの前で彼女は、


「ママ、十三年間、育ててくれてありがと」って言ったのだ。……ママは、彼女の育ての親。子供を欲しがっていた彼女の母親……梨花の溢れる涙の、その先には、


「……いいのよ、あなたの帰る場所へ……それが本来の、あなたのいるべき場所なのだから、本当にありがとう。わたしの娘でいてくれて……それから、ごめんね、長い間……」


 泣き崩れる梨花のママ……美津子みつこさん。旧姓は本田ほんだ……そして、僕のお父さんの星野ほしのという名字は、これからも、ずっとそのままだ。……僕まで梨花からもらい泣きだ。


 これからは、僕の姉として……一緒に、


 ……と、思っていたのだけど、梨花は、――「これからも一緒だよ、僕のママは、ママなんだよ。僕は『星野梨花』……これからも、これからも、あなたの娘なんだよ」


 ……今はもう窓の向こうのお話、カタカタとPC。僕は、また涙を零していた。

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