第十四回 ひなまつり!


「ちょっと来なさい!」


 という前に、可奈かなは頬杖ついている梨花りかの腕を掴んで引っ張っていた。……で、そのまま教室の外へ、もうすぐ授業にも拘らず、それでも廊下へと連れて行く。


 僕は追わない、二人の後を。

 ここで、教室の自分の席に留まる。


 ……時を数える。BBブラックボード上の横にある時計と睨めっこ。何も考えることなく、身も、頭の中も真っ白にする。次は美術の授業……三学期より、新しい先生が来られた。


 特徴は、令和の『令』が名前に含まれる。


 最近ボブの髪を伸ばし始めた梨花と、同じくらいの髪の長さ。身長は前担任の先生よりも低くて……ぽっちゃりでもなくって、う~む、可奈と同じくらいかな……。


 因みに、可奈の身長は百四十五……僕と梨花よりも五センチほど高い。



 ――そしたら来たのだ。

 ウェストミンスターの鐘と共に。


 いいや、来られたのだ。可奈も、梨花も引き連れ……いやいや一緒に。


 そして、可奈は笑顔で、

 梨花は何だか……吹っ切れたような、スッキリしたような感じの顔で、


千佳ちか令子れいこ先生のお家でやることになったよ『ひなまつり』……パパとママも一緒。みんなで楽しくだって。可奈がね、令子先生に話してくれたんだよ」


 と、喜々として……ワンオクターブ高い声で。


「う、うん」


 と僕は、梨花に圧倒されたような返事となった。……極端な変化。すっかりいつもの梨花に戻っているような感じだ。――とにかく良かった。実は買えなかったのだ『ひな祭りセット』……あまりにも高額で。昨日パパの勢いで、一緒に梨花も交えてお店巡りをしたのだけど……その結果は察しの通りで。だから、喜びも三倍なのだ。



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