第十二回 まっしぐら!


 ――三月のイベントに向かう。もう明日明後日……時間の問題だ。



 その日は平日。


 その模様をエッセイでお伝えしたいのだけど、何せ初めてのことだから、何をどうして良いのかわからない。……僕は生まれてこの方、経験したことがないのだ。


 ――ひな祭りを。



 それは、前回の『夜と朝の間』で、思いついたこと……なのだけど、梨花りかも経験がないというのだ。今日はもう三月も一日、もちろん初耳で……おおっ、困った。


 という状況なのだ。


 何をどう段取りし、どう用意して良いのか、それもわからぬまま彷徨う。

 町を彷徨う、千里せんりの町も五番町ごばんまちも、……トボトボと、梨花と二人俯いて。



「ヘイ! 千佳ちか、梨花チャン」


 と、出会った頃とは随分と柔らかくなった日本語。それに……陽気にもなって、顔を上げると綻ぶ。梨花も同じようだ。そこにはパパの笑顔があった。


 僕がパパと呼ぶのは、ティム・梅田うめださん。

 僕の新しいパパだ。……そして僕が『お父さん』と呼ぶのは、星野ほしの新一しんいちさん。二月二十二日の前日の夜、新事実の発覚で知った僕の本当の『お父さん』……三月の三日、イベントに合わして帰って来ると、そう梨花は言っていた。


 お仕事で……東の都で単身赴任をしているそうだ。

 だからなのかな? パパは、そのことを知っていたようで、


「二人とも、今からパパと一緒に買いに行こう『ひな祭りセット』……三月三日、みんなで梨花チャンのパパを、元気いっぱい笑顔で迎えてあげよう!」


 と、言ったのだ。――もちろん「OK!」だよ、僕も梨花も。



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