第九回 もう一つの『りかのじかん』……転の編。
――駆け出し、この場を飛び出した
「梨花!」「梨花ちゃん!」と、僕とお母さんの声が、夜の帳を虚しくこだまを引く。
……玄関に落としたままの梨花のリュック。そして舞い散った梨花の涙の雫。
そして沈黙が、僅かながらの時間を埋める。僕の中にあったはずの『お母さんと喧嘩をした理由』は……お母さんの「
『ただ今は梨花のことが!』
その思いの前にその感情が、僕を走らせた。
梨花を探す、道行く人を掻き分けながらも。似た後ろ姿もあったが人違いで。
「梨花! 梨花!」と自分でも、自分とは思えないような声のトーン。泣きべそを掻くまで必死に探す自分……そんな中、ドラッグストアーの付近で、スマホが鳴った。
それは、僕と同年代の女の子。
しかもクラスメートで、僕にだってできた、大切なお友達。
――
『ちょ、ちょっと千佳、電話出るなりいきなり泣かないでよ』
「だって、だって……」
『梨花なら来たよ』
「えっ?」
『さっきまでここにいてね、落ち着いたみたいなので帰したよ。……でも、今日はそっとしといてあげてね。リュックは明日、わたしと一緒に持ってってあげようね』
「……そうか、明日は学校休みだったね。可奈は大丈夫なの?」
『うん、もう大丈夫。梨花のおかげかな? バッチリ水疱瘡も治ったからね』
可奈はインフルではなくて、水疱瘡だったのだ。……そして、次回に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます