第四回 それは、地下の話から。


 ――ようやくだけれど、この話に至る。

 ここは『ウメチカ』と呼ばれる場所だ。



 この話が欠如しては、この物語は成り立たないのだ。……でもその頃は、そんなことなど知る由もなく只々と、この『ウメチカ』と呼ばれる地下街を、彷徨うしかなかった。


 夏とはいえども、

 連なる店舗から流れる機械的な冷気が、僅かな隙間も与えぬまま、僕の濡れた体を容赦なく冷やしていた。やがてはガチガチと痙攣を覚えて、目の前が滲んでゆく……。


 すれ違いや、道行く人たちの声も、

 何処か遠くのことのようで、キーンという音が遮る。


 そんな渦中にあっても、


「キミ、ダイジョウブ?」


 という男の人の声が、そばに、一番近くに存在した。……体の感覚は痺れから、段々と感じなくなって、それでいて何だかほんのりとする温もりのみ、不思議と残った。


 発音が異なる。海外の人かな?

 片言な日本語、日本に来て間もないのかな?



 ……これは夢、きっと、このまま死んじゃうんだ。


 そして考える。何かやり残したこと、したかったことなど。……いじめの毎日、それしか思い出せない。とくに何もない。何もしたかったことなど。……僕なんて、そんなものだったんだ。……でもでも、何でかわからないけど、最後に、


 ――この人に会えてよかった。……って、


「へ?」と、目を覚ました? パチクリと。

 僕、死んだんじゃなかったの? ボーッとする頭だけれど、傍らにいたの。


「キガツイタネ……」とその声、その男の人が和やかな表情で僕を見ていた。



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