第7章 あれから、時は過ぎて……。

第26話 夢物語

(タケシside)


 ここはミニチュアな日本から離れた巨大なアメリコ空軍基地の、とある格納庫。

 

 通称、宇宙人が生息していてUFOを制作する基地と噂された場所。


 その飛行機たちの影にある、奥の隅にある異次元の空間。


 この噂は本当でボクたち宇宙人は、この空間で寝泊まりをしている。


 ちなみに、この空間は一度行ったことのある場所なら次回から、この空間を通じて好きな場所に出入りできる便利な代物しろものだ。

  

 またボクは、代々このアメリコに住んでいて、とある文化の影響で日本で生活していた時期もあったが、とある人たちが幸せな生活を送るなか、ボクも他人の幸せの邪魔にならないように、現地のアメリコに戻り、昔のような生活をいとなむようになった。


 太く短くな精神も大事だが、長い目で見たら細く長く生きた方が良い。


 日本で年越しそばを食べている時に屋台の店主から教わった台詞だ。


 宇宙人の人生は人の何倍もある。

 しかし、その長さゆえに堕落だらくな生活を行う者も中にはいる。


 でも、ボクはそうはなりたくなかった。


 短い期間だったが、あの時、異世界で過ごした人たちのように悔いなく、まっすぐに生きたかった。


 ボクは毎日を悔いなく生きたいと思った。


 ──さらにボクは日本で様々な学問や文化を学んだ。


 なかでも日本特有のアニメやゲームなどの文化はボクをとりこにした。


 アメリコにはあんな萌えなイラストや映画のような重厚な物語のサブカルチャーな作品とかはまずない。


 最近も、たまに日本のアニメイドにおもむくこともあるが、いつも驚きの連続だ。


 毎回、様々な作品の音楽、映像作品、グッズなどが陳列されて、それらをたしなむ人々。


 日本はアニメやゲームで急速に発展し、僕のような人々の心さえもわし掴みにしたのだった。


 そう、リアルと同じく、二次元に国境はないのだ。


 それを教えてくれた日本人に感謝しなければならない。


 そのきっかけでこの超能力を教える場所を作ったのだが、あの事件から成果は今ひとつだった。


 ──そんななか、その商売を辞めて昔のようにアメリコで細々と暮らしだしたボクは、ビニール袋の荷物を抱えながら広大なビルと海が広がる街中を徒歩で移動する。


 アメリコは自由と平和の国だ。

 ボクのような全身タイツの灰色姿で歩いていても、かんぐる人はほとんどいない。


 ただ、こんな格好でお祭り騒ぎではしゃいでいるのだろうと勘違いされる。


 まあ、ボクにとっては生活に支障がなかったらどうでもよいことだ……。


****


「よお、お疲れさん。帰ってきたか、タケシ」


 ボクが、その草原の広がる空間に帰宅すると、いつもの男性の声がした。

 

 この人は、もうずいぶん前からここにいる。


 まるで人目に隠れて存在してるかのように……。


龍牙りゅうがさん、また例の研究?』

「まあな。この異世界の空間で、どのようにしてモンスターが生息してるのかと考えるとついついな……」


 この上下黒の作業服を着た人、紅葉龍牙もみじ りゅうがさんは、少し前からこのアメリコの基地で世界平和を営む活動をしていた時に、この異世界の穴に誤って落ちたらしいが、なぜかこの現場が気に入ったらしく、ここに引きこもり、ある研究をしている。


 目鼻が整った褐色な筋肉質な好青年で、本人は、よわい二十歳と名乗ってはいるけどボーボーの髭面で、黒い髪は腰まで伸びていて、頭の後ろで縛っているが本当に、その歳なのかも怪しい。


 しかも彼は結婚していて、すでに子供が二人もいるらしい。


 これで本当に二十歳なのかと疑ってしまう。


 また彼にはドラゴンの血が流れていて、特殊な能力が使えるらしいが、僕は一度もそのような能力を見たことがない。


 いや、能あるたかは爪を隠すという言葉があるように、わざと隠しているのか……。


「それで、このモンスターがさ……。

何でゼリー状なのにあんなに高くジャンプできるかだが……」


 龍牙さんが背後からスケッチブックを出して2Bの鉛筆で何やら絵を描いている。


 ふと、ボクは隣からそれをのぞきこむ。  


 丸っこいシュークリームの形に目玉焼きのような二つの瞳、つぶらな豆のような空いたくちびる。


 それはボクがいつも異世界で操っているモンスターの一つ、スライムゼリーだった。


 さらに、この人の絵はとても綺麗なタッチで上手だ。

 

 本人は大したことはない、人より少しひいでてるだけだと謙遜けんそんしているが、この誰にでも分かりやすい画力は世界共通で通用するレベルだと思う。


 まあ、ボクは宇宙人だから人間の見方とは少し違うかな。


 実際の絵画展にしょっちゅう足を踏み込むのではなく、プロの作家に色々と学んだわけでもなく、直感で思っているだけだから。


「……でな、コイツの運動能力はカエルの飛び方と似ていてだな、要するに体全体が筋肉ではないかと、俺はにらんでいる……」


 そんなボクの思いにも気づかず、龍牙さんは、スケッチブックでイラストを描きながら、色々と自分のイラストを見せてくれた。


 中にはスライムゼリーらしからないお色気なムンムン姿のスライムゼリーもいて、僕はそのイラストだけは見て見ぬふりをした。


 僕は健全な男の子なのに、何てものを表現するのか。

 さっきから僕の白い鼻血がだらだらと止まらない。


「……お前、大丈夫か。どこかで頭でもぶつけたか?」


 僕のことなどいざ知らず、今度はスライムゼリーの断面図のイラストを見せる。

 内臓器官、消化器官、生殖器官……。


 ……と、ぶぶっ、と僕の鼻血がマグマのように吹き出る。


『龍牙さん、わざとかな。僕を出血多量でダウンさせる気かい?』

「なーに、それなら心配ないさ。その時はケチャップ……いや、マヨネーズで輸血するからさ♪」

『だからそれは調味料だよ。血液じゃないから!?』


 絶対、この人はわざとだ。

 既婚者の余裕か何かは知らないが、健全で経験のないボクをからかっている。


 ボクに大人の階段を昇らせようとしているのか。


 この人の考えが今一つ分からない。


「まあ、それはさておき。研究は後回しだ。腹が減ってはいくさはできぬ!」


 龍牙さんがスケッチブックを床に置き、手持ちの黒のリュックの中身をガサガサと漁り出す。


「じゃーん、納豆餃子缶。うまいんだぜ、これが~♪」


 そして、何やら手のひらサイズの長方形の缶詰を取り出してニタニタと笑っている。

 その、なんのへんてつもないアルミ缶を片手にして、何がおかしいのだろうか。


 それともボクのお笑いのキャパシティーが足りないのかな。

 

 地球には多種多様のお笑い芸人がいる。


 しかも場所によってコメディーの要素も違う。


 日本の冗談とアメリコのアメリコンジョークとの違いのように……。


「さあ、いいからタケシも一緒に食べようぜ。まさかこれが、ここでも食べれるとはな」


 ボクの目の前にその缶詰と二つの棒切れを渡し、本人は手元の缶詰を開けようとしている。


 はて、この細い二本の棒は何だろう?


「ああ、コイツの使い方が分からないんだな」


 ボクが途方に暮れていると、龍牙さんがその二本を鼻の穴に突っ込み、それを口に引っかけ、何やら変なダンスをしだす。


「あ、それ。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ♪

……さあ、やって味噌ミソ♪」

『絶対、嫌だぁぁー!!』


 ボクの鼻の穴にそれをぶっさそうとする龍牙さんから逃げ回る。


『嫌だ、こんな所で恥さらしで死にたくないぃー!』

大袈裟おおげさだな。習うより慣れよということわざを知らないか?」

『いや、慣れたくもないぃー!!』


 龍牙さんが二本の棒をわしゃわしゃさせながらボクににじりよる。


 ボクは絶体絶命の危機を味わっていた……。


****


『タケシ、どうかしたのですか。頼んでいた買い物は行ってきたのですか?』


 そこへ、絶妙なタイミングで別の円状の空間からボクのお母さんが登場する。


 そうだった、ボクはおつかいの帰りだったんだ。


 ボクは床に置きっぱなしのビニールの買い物袋を掴んで、中身を確認する。


 確か、ボクはお母さんから明日のごはんの食材とかを頼まれて……卵に、食パンに、牛乳に砂糖と……。


「ほぅ、フレンチトーストを作るなんて洒落しゃれてんな。俺の嫁も作るんだぜ」


 龍牙さんが僕の隣で物欲しそうにヨダレを垂らし、目をギラギラさせながら突っ立っている。


「どうせなら、今ここで、ちょちょっと焼いてから食わねえか?

バニラアイスとハチミツも添えてさ。食後のデザートにちょうどいいぜ♪」

『龍牙さん。駄目ですよ。これは明日、息子の友人の誕生日パーティーに使用するのですから』


 お母さんがヨダレだらだらな怪物のような龍牙さんの暴言を止めに入る。


「だったら、俺も明日が誕生日だ。一緒に食おうぜ!」

『……そんな都合よく生まれた日を変えないで下さい……』

「ちぇっ、分からず屋……」


 龍牙さんがしゃがみこみ、足元の地面に指で何やら文字を書いている。


 どうやら完全にいじけてしまったようだ。


 まったく、どっちが分からず屋かと言いたくなる。


『……それはそうと龍牙さん。この前、ここに迷いこんだ人間の最新の研究結果が分かりましたよ』

「そうか。見せてくれ!」


 お母さんが、異空間のゲートを開け、そこから心電図の資料のような長く白い紙切れの束を龍牙さんに手渡す。


「フムフム。これは貴重なデータをありがとな。早速参考にするよ!」


 龍牙さんがその資料をがさつに丸めて、昼ごはんをガツガツと食べだす。


 しかし、その白い三日月のようなおかずから凄い異臭がする。


 ボクは、たまらずに天井近くにある扉を開けて換気をする。


 本人は、その匂いには何とも反応せずに美味しそうに食べているが、なっとうなんちゃらという食べ物……はたして本当に食べ物なのだろうか……。


『……それでお母さん、龍牙さんはここで何をやってるのさ?』

『何でもここだけの話ですが、世界平和は口先だけで、どうやらとある亡くなった人を蘇生させるために様々なデータを集めているらしいですよ』

『……ふーん。彼にも色々とあるんだね……』


 ボクには、一心不乱に食事をする龍牙さんに対し、彼は僕らの前では無理に明るくふるまい、接しているかのような姿に見えた。


「おい、タケシ。わりーが、ご飯のおかわりはあるか?」


 龍牙さんが空になった弁当箱を僕に差し出す。


『はい、ちょっと待って』


 ボクは、炊飯器を持ってくるために近場に着陸している宇宙船へと向かった……。


****


 今、彼はボクたちとこの異世界でともに生活をしている。


 彼は研究という名目でボクの仲間から絶大な評判を受けて、たまにこの異世界でたまに遊びにきた宇宙人相手に講義も開いている。


 彼いわく、今まで様々な人に迷惑をかけたらしく、それなりの恩返しがしたいそうだ。


 最近ではその評価も認められ、アメリコでも特別な研究員になりつつある。


 ウチの研究所から多額の給料は出すから、家族たちには内緒で秘密裏で働き、これからもアメリコ軍に貢献こうけんしてくれと……。


****


『まあ、端から見たらモンスターをのほほんと眺めて好きな絵描いているだけだけどね……』

『別に良いではないですか。本人が決めた道ですから』


 好きなことを仕事にすることは難しい。

 好きだからこそ見えない部分もある。


 それは恋愛と一緒。

 これからも龍牙さんは、ここで働いていくだろう。


 ボクとお母さんにできる事は精一杯龍牙さんをフォローする事だ。


 だって、もう龍牙さんはボクらの大切な家族のようなちっぽけで大きな存在だから。


 いつか、この人が願う人が再びこの大地を歩けるように……。

 

 ボクたちは影から支えるばかりだ……。


 Fin……。

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