第6話 黒瀬千帆。

黒瀬千帆。高校2年生。11月23日生まれ。

お父さん、私、妹の3人家族。

お母さんは、妹を産んだ時に亡くなりました。


妹は、2歳下。当時の私は歳が若かったため、お母さんの顔を覚えてません。


笑顔で写っている写真からとても優しそうな印象を持っています。


お父さんは仕事を夜遅くまでしています。凄く優しいです。


前の学校で私がいじめられていた時にいち早く気づいて転校という行動に出ました。私はそんなお父さんの優しさに甘えていました。

ですが、お父さんの知らないところで体にはたくさんの“傷”をつけられていました。


妹はずっと元気がありません。

お母さんがいないからとか、友達関係が上手くいっていないとか話してもくれないので分かりません。昔はあんなに笑っていたのに。



──と、日記のように語ってみる。お父さんは仕事を無理したせいで倒れたこともあった。


『妹の調子』『父の体調』『父の仕事』『イジメ』『ストーカー』『人間関係』『お金』『病気』『体の傷』など.....。


語りきれないほどの重りを私は背負っている。

お父さんに心配させないように、せめて私だけでも元気にしていたら.....。

そんな考えで、自分の心に嘘をついて今まで生きてきた。

「私の何が悪いって言うの?」

「私の何が間違いなの?」


聞こえてくる自分の心に答えはしないで、ただ笑顔で、ただ自分が思う元気で今まで上手くやってきた。



あの時、あの場所で、そしてここで。



「──大丈夫.....ですか?」


見ず知らずの男が急にそんな声をかけてきた。制服から同じ高校だとは分かった。

その目を見ると全て見透かされたようだった。


──まるで自分の心の中を覗かれているように。


私が今まで作ってきた感情を、心を、あいつはその一言で全てを壊した。


そして今度は

「ストレスが見える」と。「大変だった」と。


意味がわからない。意味がわからないのに.....。

なんで?なんでこんなに.....


──嬉しいのだろうか。


今までの努力を壊したくせに。

惚れた?助けさせろ?


今まで誰にも言えなかったことを?

今まで私が作ってきたことを?


普通に見たら何を言っているのかと思うだろうが私からするとその言葉は...、その行動はヒーローそのものだった。



欲しかった言葉を.....、私のしてきた事を納得して否定してくれたことが.....。


欲しかった言葉を.....、欲しかったその言葉を言ってくれたこと。


私は自分の心で語りかける。

小野宮 陽町。お前が思ってる以上に私は救われたんだぞ。この人なら言ってもいいと思えたんだぞ。


「ありがとう、ありがとう、ありがとう」

気づいたら抱きついてそんなことを言っていた。


あーあ、私らしくないな。

もともと私らしくない生き方だったのかも知れないけど。




「助けさせろ.....か」


そんなことを呟いて、私は陽町の後ろについて下校をするのだった。



「ありがとう」

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人を好きになれない理由は、あれのせい。 迦楼羅 @kaitowsyousetsu

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