第13話

「……」

「あ、お久し振りです腑抜けサン」

 当たるんだよな俺、当たるんだよ嫌な予感が。

 口がヒクリと引き攣るのを感じながら「久し振りだなピンク頭」と挨拶を返した。

「その呼び方やめてください。前に自己紹介したの忘れたんですか? ああ、それとも人の名前を覚えることが出来ないくらい小さい脳みそなのか。仕方ない、それならその呼び方でもいいですよ」

「おいおいおい、自分の発言を顧みてくれよ! それと今そういう『記憶力が無い』みたいなディスリは控えろ、テスト後でナイーブなんだよ」

 昨日やった日本史のテストは多分ギリギリ平均点だ。くそぅ、結構勉強したのに……。

 テストが終わった次の日の今日、「広大高校で本日2体目の陰魂が発生したので、今から24時間以内に向かってください」という依頼のメールが届いた。夜光さんが教えてくれたとおりだ、テストが終わったあちこちの学校で陰魂が発生している。もしかしたら俺の高校でも発生しているかもしれない。

 で、俺が依頼を受けた広大高校は、来てみて分かったけど結構大きい校舎だった。スマホで調べてみると、どうやら一学年10クラス以上あるマンモス校らしい。メールには2体発生したと書かれてあった。こんなにデカい学校なら陰魂も2体出るよな。

 ということは俺以外にも誰かここの依頼を受けてるんだ。誰だろう、アイツだったら嫌だな……と思いながら校門に向かったら案の定コイツがいた。運が悪すぎる。

 関係ないがコイツの本名を覚えてない。なんだっけ、結構珍しい名字の割に名前は普通だったような……ダメだ思い出せる気がしない。

 グーッとピンク頭を睨みながら心の中でうんうん唸っていると「行かないんですか?」と聞かれた。

「えっ、い、行くよ。行く行く」

「じゃ行きましょう」

 そう言うと、ピンク頭は校舎に向かって歩き始めた。慌ててピンク頭についていこうとし「ちょっと待て!」と呼び止めてつんのめるようにして立ち止まる。

「なんで一緒に行く必要があるんだよ」

「アタシだって不本意ですよ。でもアタシ達2人が依頼を受けたってことは、陰魂はこの学校に2体います。もしバラバラで校舎に入ったとしますよ、1体目の陰魂を退治したほうが2体目と遭遇するかもしれません。陽エネルギーが過度に消耗するのを防止するため、1人で2体以上の陰魂を倒すことは原則禁じられています。効率は悪いですが、2人で行動すれば、1人で2体陰魂を倒さなきゃならない事態を防ぐことが出来ます」

 ピンク頭はクルリと振り返ってそう答えた。なるほど、そんな意図があったのか。そういうことなら大人しく言う事を聞こう。

「そっか、確かにそうだ。気づかなかった」

「言わなくても分かるかと思いましたが、やっぱり海馬の働きが弱いようですね」

「いちいち俺を貶めないと会話が出来ないのか」

 再び歩き出したピンク頭についていきながらそう返すと、ピンク頭は「そうですね」と言って顔だけこっちに向けた。

「名前を覚えてくれない人に敬意を払う意味はありませんからね。花厳玲衣です。まあ別に覚えられたとしても微塵も嬉しくありませんが」

 やな奴やな奴やな奴!

 コイツと一緒にいたら、俺の負の感情だけで陰魂が生み出せるかもしれない。


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