side玲衣
「すごかったね」
目線を下にずらすと、慈が眉を下げて笑っていた。アタシは朝蔭サンがいなくなったことで空いた椅子に座る。
「ごめん、うるさかったね」
「いや、それよりもびっくりした」
慈はにこりと笑って「レイちゃん、あんな物言いも出来たんだね」と心底感心したように言った。
なんだか恥ずかしくなって誤魔化すように「ん?」と首を傾げると、手を伸ばされて頭を撫でられた。
「……え、何、告白?」
「いや? 良い子だなあと思って。よしよし」
慈は優しく頭を撫でながらそう言った。グッと言葉が詰まる。
チクショウ、やっぱりバレてたか。
「憎まれ役をさせちゃったね。本当は私がやらなきゃいけないのに、ごめんね」
「……いいよそんなことしなくて」
テーブルに突っ伏すと、撫でる手が二つになった。手のぬくもりを頭髪越しに感じながら、独り言のように話す。
「言ったこと全部本心だもん。あの朝蔭サンって人、今でも腑抜けだって思ってるし」
「でも、ああいう言い方をしなかったら朝蔭さんは変われなかったよ。多分だけど、私の言葉じゃ変わらない」
慈はアタシの髪を指で梳きながらそう言った。少し顔を上げて慈の目を見る。
「変わったって分かるの?」
「変わるよ。だってレイちゃんがこんなに頑張ったからね」
慈はニッコリと笑った。
「理由になってないよそれ」
「え、そう?」
んふふ、と楽しそうに笑う慈を見てため息をついた。
あの時、初めて朝蔭サンに会った瞬間「ダメだ」と思った。
ああこの人、何も出来ずにすぐ死んじゃうタイプだ。
恐怖を恐怖のまま受け容れようとしている。心根が素直な人ほど、陰魂と対峙したとき陰魂がまとう負の感情をダイレクトに受け容れてしまいがちになる。アタシは根がひねくれているので何にも考えずに中和することが出来るけど、あの朝蔭サンって人は本当に素直なんだろう、遠くから見て分かるほど顔も身体も強ばらせていた。
「『怖い』って感情を上回るものが『怒り』しか思いつかなかったの。アタシ馬鹿だから」
「偏差値70以上あるのに?」
「いざってとき脳を働かせられない奴は馬鹿なの」
「馬鹿じゃないよ」
きっと朝蔭サンはアタシを大嫌いになったはずだ。それこそ陰魂なんかより。それでいい。陰魂より心を動かされるものが出来れば、陰魂を前にして動けなくなることなんかなくなるだろう。
「今度朝蔭さんに会ったら、ご飯でも食べに行く?」
「なんでよ、絶対無理でしょ」
「そんなことないよ。まあ、初めは無理だとしても最終的には仲良くなって欲しいし」
身体を起こし「無理だって」と笑うと「なんで?」と笑い返された。
「だって二人とも優しいから。絶対気が合うよ」
なんだそれ、と思わず力が抜けた。
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