第5話


「ここですね」

 移動図書館車から降りると、ちょうど目の前にリンドウスーパーがあった。夜光さんはスーパーの上の方を見ていたので、俺もそっちの方を見てみる。

 ヒュッと息が唇の隙間から漏れた。

「い、陰魂ってアレ?」

「そうですね。かなりデカい」

 思わず後ずさりする。陰魂はスーツの人が言っていたとおり、リンドウスーパーの屋上の駐車場にいた。ハッキリと輪郭は見えないが、カラダが屋上からはみ出しているぐらいに大きいことは分かる。

「昨日見たヤツよりめちゃくちゃデカくない……?」

「デカいですけど、醜悪さはそんなに感じられませんね。質より量って感じです」

「へ、へぇ、てっきり大きければ大きいほどヤバいのかと思ってたよ」

「大きさは関係ないですね。ヤバさを決定づけるのは言動の内容です。あれはただ陰エネルギーが過剰に集まってしまっただけかと」

 そう言いながら夜光さんはスーパーの中に入っていった。しばらく夜光さんの後ろ姿をぼうっと見送り、慌てて後を付いていく。

「中のエレベーターから行きましょう。そっちの方が気づかれなさそうです」

「わ、分かった」

 思わず声が震える。手のひらにじんわりと冷たい汗がにじむ。それをごまかそうと、身体の横で両手をギュッと握った。

 落ち着け、落ち着け。大丈夫、夜光さんも言ってたとおりデカいだけ、見かけ倒しだ。

「朝蔭さん、ここで待ってますか」

 エレベーターのボタンを押そうとした瞬間、夜光さんがいつも通りの声色でそう言った。

「いやあ、思ったより規格外のデカさなので見学には不向きそうです。初めはやっぱり自分と同じ大きさくらいが分かりやすいですよね」

「いや、せっかくここまで来たから行くよ」

 そう言ってエレベーターのボタンを押す。しばらくするとエレベーターが降りてきて、扉が開いた。

「……無理矢理連れてきてしまってすみません」

「違うよ、俺が無理矢理見学しに来たんだって」

 そうでしたっけ? と夜光さんが小さく笑った。一緒にエレベーターの中に入る。

「さっきも言いましたが、アレは規格外の大きさです。でもただそれだけです。一瞬で片をつけます」

「片をつけるなんて言葉日常生活でスッと出てくるもんなんだな」

 扉が閉まり、エレベーターはゆっくりと上昇していく。

「絶対守ります」

「そうしてくれなきゃ困るよ~」

 チン、と音が鳴って扉が開いた。

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