第28話 ぼくビシッといったよね。ちゃんとやる男だったでしょう?
沙希さんとは、はじめての個展にきてくれて以来連絡をとっていなかった。結婚をお知らせしようと一年ぶりくらいに会う約束をした。横浜のカフェに祥子と連れだって出かけた。
先にきていた沙希さんが手を振ってここだと教えてくれる。
「どうもご無沙汰しました。祥子、こちらが沙希さんだよ」
「はじめまして、あの、お腹赤ちゃんが?」
「え?」
ぼくは気づかなかったけど、女はこういうところ目ざといんだな。沙希さんがお腹を手でさすった。
「おめでとうございます。すみません出てきてもらって」
「大丈夫。妊娠は病気じゃないんだから」
祥子にはすでに沙希さんの話をしてある。ぼくが勤めていたときに仕事の関係で知り合ったこと。それは、ぼくが山口にフラれるまえくらいだったということ。ぼくが独立した去年、沙希さんも仕事を辞めて、そのあと知り合った人とスピード結婚したこと。さらに、ぼくが卒業した専門学校の写真科にはいって、いまは後輩だということ。最近賞をとったこと。
「沙希さん、ぼく祥子と結婚することになったんです」
「そう!それはおめでとう。奥田くんが美人つれてきたから仕事関係の人だと思っちゃった」
「まあ、ぼくもやるときはやる男ということです」
「うそ。大変だったでしょう?奥田くんを落とすのは」
「それはもう」
「祥子まで。ぼくビシッといったよね。ちゃんとやる男だったでしょう?」
「わたしに土下座してたけど」
「付き合ってくださいって?」
「ちがいます。そういうつもりじゃなかったっていって、謝罪の土下座です」
「ごめんなさい。前言撤回します。やる男にはなれませんでした」
「さすが奥田くんだね。じゃあ、今日は仕事の話じゃないんだ。結婚のお知らせ?」
「そうです。仕事の話きてるんですか?賞をとったんですよね。あ、ぼくなにもお祝いしてないんだった」
「カズキ、それはマズいでしょ。先輩なのに」
「ごめん。えーと、じゃあ、近いうちにあらためて」
「いいよそんなの」
「そうだ。赤ちゃん生まれるから、生まれたあとの方がいいのか」
「結婚式は?もうやったの?」
「結婚式は、クリスマスにペンション貸し切りでパーティーをやる予定なんです。泊りになるから親戚だけの小さい規模のパーティーです。クリスマスだし」
「ドレスはどうするの?」
「着ます。でも、高原という感じのところで丸太小屋っぽいペンションだから、雰囲気の合う、ちょっとシンプルなのです」
「わたしお腹がこんなじゃなければカメラマンしに行くんだけど」
「沙希さんの結婚式はぼくがカメラマンをやったんだ」
祥子に、風景だけじゃないんだよと胸を張る。祥子もへえって言って、ぼくを見直したみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます