第21話 あ、反則。ですます禁止だよ

 大量の水をたたえた湖が、無風状態のおかげで鏡のように星空をうつしていた。祥子とぼくは転落防止のガードレールに寄りかかりながら、広大な宇宙と、鏡写しのもうひとつの宇宙を顔を寄せ合ってながめた。宇宙に吸いこまれるような気持ちだった。

「七夕の日ってさ、くもっていて星が見えないことがほとんどだよね」

「そうだね、毎年残念な気持ちになる」

「道には迷ったけどさ、ラッキーだったね」

「道に迷うのは慣れっこだから、ただのラッキーだよ」

「そういうところも、好きだよ。祥子はぼくの人生を明るくしてくれる」

「お互いさまでしょ」

「うん。この小さい点ひとつひとつが太陽みたいに光ってるんだ。そのうちのどのくらいに地球みたいにまわりをまわっている惑星があるのか知らないけど、惑星がまわっている星もいっぱいある。ぼくにとっては、祥子が太陽でぼくが惑星。みんなが自分の太陽を探して宇宙をさまよってるんだよね。ぼくはずっと祥子のまわりをグルグルまわっていたい」

「わたしもきみの周りをまわりつづけるよ」

「えっと。告白した場所に撮影に行くことが決まって、祥子も一緒に行ってくれることになって、すごいチャンスだと思って。同じ場所でっていうのがいいかと思ったんだけど。アドリブになっちゃって、きっとうまく伝わってないんだと思うんだけど」

 祥子がぼくを見上げた。涙が頬を流れている。

「伝わってるよ。きみの気持ちは伝わってる。わたしはきみのものだし、きみはわたしのもの。ずっと一緒。そういうことなんでしょう?」

「てへへ。すごいな祥子は。絶対わからないと思ったのに。そうだよ。ぼくはプロポーズしたんだ。結婚しよう、祥子」

「あらためて言うなら、わたしもあらためて答える。はい。結婚しましょう、カズキ」

「あ、反則。ですます禁止だよ」

「大事なところでまちがっちゃった。やりなおし。結婚」

 ぼくは祥子の口をふさいだ。宇宙に見せつけるように、こってりしたキスで。

 きっと、祥子がぼくを見つけてくれたから出会うことができたんだ。好意をよせてくれた。ぼくが告白できるまで待ってくれた。プロポーズは、自分ではどうかと思うけど、祥子のするどさのおかげでうまくいったんじゃないかな。

 唇をはなす。

「ちょっとぉ。最後までいわせないの?」

「じゃあ、どうぞ」

「ふう。カズキ、結婚」

 ぼくは調子にのって、またキスで祥子の言葉をさえぎった。

「もう、最後までいいたいのに」

「はじめに反則しちゃうのがいけないんだよー」

 またこってりしたキスをお見舞いした。

 何度キスしただろう。祥子がしびれをきらしてぼくに抱きついた。耳元で、結婚しようと甘くささやいた。ぼくの婚約者はなんて最高なんだろう。幸せの大洪水に飲み込まれた。

 なんとなく去りがたくなって、ダム湖のガードレールに寄せた車のボンネットにすわって星を眺めつづけた。

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