第20話 ダム湖、星空が広がる
二月に祥子と付き合い始めてもう半年ちかくたったころ、またあの告白の地で撮影することになった。今度は夏の集落を撮影するためだ。
祥子も一緒に行くことになった。祥子は同じ県の中学校を取材したいと言った。こっちも仕事だ。それで、機動力のために出版社の車を借りて出かけた。なにかのときに会社名が横にはいっていたほうが都合がよいことがありそうだ。
取材してみて追加で取材したいなんてことがあるかもしれないから、先に祥子の取材を済ませる予定になっていた。取材といっても人物は創作するから、校舎とか教室の様子とか、天井の高さとかを知りたいだけだった。人に話を聞くのが取材だとぼくは思っていたんだけど、ちがったみたいだ。それから、学校の周りとか、町のようすなんかを見てまわった。ぼくはちょっとしたドライブを楽しんだ。
順調に取材を終えてから、ワッフルのお店にはいってお茶をした。ワッフルはなかなかのボリュームで、祥子はアイスがのっているのにしたから、体重が増えるかもしれないなんて、女の子らしいことを心配した。食べはじめてから言っても遅いんだけど。そんな祥子もかわいらしい。
ちょうど放課後のおやつタイムで、中学生がお店にはいってきた。女の子ふたりに男の子という組み合わせに祥子が興味をもってしまった。ちょうどぼくの背中側にすわったもんだから、ぼくが聞き耳を立てる羽目になった。どうも、仲の良い男女のペアに女の子の友達が一緒になった感じだった。あとで車に戻って報告したら、なあんだつまらないと祥子に言われた。ぼくに言われても困るんだけど。一緒にくっついてきた女の子もカップルの女の子のことが好きならおもしろいのにと、そのあとも勝手に設定を追加して楽しんでいた。小説家の頭の中ってどんなことになってるんだろう。
はじめての山のドライブで、しかも日が沈んで、道がわからなくなってしまったらしい。ナビはついていない。助手席にすわったぼくの女神は、方向感覚に病を抱えているのでアテにしてはいけない。この道じゃないよなーと思いながら道なりに走っているとダム湖らしきところにでた。ここで地図を見ればきっと、ぼくたちはどこからきてどこへ向かうのかわかるだろう。駐車場で車をおりる。しばらく同じ姿勢だったから疲れた。
湖がなんだか光っているように見える。まわりは山で、光るものはなにもない。祥子がぼくのとなりにやってきた。
「ねえ、キレイじゃない?」
「そうだね」
「行ってみようか」
「たぶんダム湖だから湖岸におりられたりしないよ?」
「ちかくで見られればいいの」
ぼくは祥子に引っ張られるようにして歩き出した。駐車場に覆いかぶさるような、木々から張り出した枝葉が途切れる。満天の星が輝く空があらわれた。湖からの光と対称をなしている。
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