第14話 「もしかして、したことないですか?セックス」 「あ、ありますよ」 素人じゃないけど。
仕事で古い日本家屋の集落を撮影することになった。なかなかの豪雪地帯だ。といっても、普通に生活している人がいるから、アプローチがむづかしいとか、現地で泊まるところがないとかいうことはない。
ぼくは、自分にしては快挙だと思うんだけど、例の女神アルテミスを撮影に誘ってみた。小説家の仕事がどのくらい忙しいものか知らなかったけど、都合がつくようなら一緒にどうでしょうと。答えはイエス。一緒に行ってくれることになった。ぼくは浮かれた。一人で撮影に出かけるのに慣れていて孤独を感じることはなかったけど、一緒に行ってくれる人がいると思うと、気分が浮きたつ。そんな自分に気づいて、やっぱり一人で出かけるのは孤独だよなと知った。
撮影のために、一軒の日本家屋を宿として借りることができた。民宿みたいなものだ。ここを拠点に撮影に出かける。
まずは連れ立って、雪に埋もれたような家々を撮影する。集落をひと回りした。つぎは宿に居残りをしてもらって、一人で集落を囲む山に登り集落全体を撮った。今夜は満月だ。夜にも撮影する。満月をいれて撮るか、満月の明かりで撮るか。それによって撮影場所はかわってくる。今日は満月をいれて撮るのがいいかな。明日、少し欠けるけど月の明かりで撮影しよう。
山に囲まれた場所だから、日が落ちるのが早い。早々に引きあげた。また夜中に出かける。
宿にもどると、囲炉裏に鍋がかかっていた。昔話みたいだ。
「おかえりなさい。とってもおいしそうですよ」
「すごい、昔話みたいですね」
「日本人なのにね」
「本当ですね、いつごろまで日本人の多くがこんな生活してたんですかね。江戸時代とかかな。囲炉裏というより台所にかまどって感じですね。地方によってちがうのかな」
「わからないけど、不思議な感じですね。おじいさんすわってください」
「別に年寄りじゃなくてもこんな生活だったんですよね」
「なんとなくです」
チャーミングだ。
「そうだ。十一時かそのくらいにまた撮影に出かけます。寝ていてください」
「嫌です」
「嫌?」
「わたしも行きます」
「寒いですよ?」
「あたためてくださる?」
「」
おかしいな。このくらいの返しはできるだけのスキルを身につけたつもりだったのに。
「だったらわたしが温めてあげます」
「いや、あの」
「こんなことだろうと思って、ジンジャーミルクティーをいれる用意をしてきたんです」
期待が暴走していたらしい。体を中から温めることもできるんだった。
「そうですか」
「あ、がっかりさせちゃいました?」
「すみません、妄想が暴走して、発想が逃走したくなりました」
「なんですかそれは」
「ぼくも、なんとなくです」
「今日は着物ではないです」
「そのようですね」
「ちょっとセクシーにはほど遠いけど」
「セクシーである必要はありません。いつもキッチリな感じですよね」
「ちょっと、苦手なんです。セクシー路線は」
「似合ってるから大丈夫です」
「でも、男性はお堅いと思うと引いてしまうでしょう」
「それは、人それぞれじゃないですか。たぶんぼくならセクシーなのは引いてしまいます」
「ほうほう。なるほど。というと着衣のまま?」
「なんの話ですか?」
「あれ?セックスのときの格好じゃないんですか?」
「普段の服装の話です」
「ということは、セックスのときはどんな?全裸じゃないほうが?」
「知りません」
「ウブぶっちゃって」
「ウブで、悪いですか」
「ウェルカムですよ?もしかして、したことないですか?セックス」
「あ、ありますよ」
素人じゃないけど。
「はあ、でもすこししか経験ない感じですね」
「それは、あれです。風景写真を撮りに行っていて、人間と接する機会がすくなかっただけです」
「ぷっ」
「なんですか」
「かわいいです。ちょっとこっちきませんか」
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