第4話 イチゴちゃん、気をつけて。カズキにキスするとほっぺをなめられるわ
ぼくは膝をついて目線をイチゴちゃんと同じにする。
「イチゴちゃん、気をつけて。カズキにキスするとほっぺをなめられるわ」
「えっ」
イチゴちゃんが嫌そうな顔になる。
「カナ、ぼくはイチゴちゃんにそんな無礼なこと」
イチゴちゃんをつかまえてほっぺをペロリ。
「うぎゃー」
レディーらしからぬ叫び声。イチゴちゃんを解放してあげる。
「ほらー」
「おかしいな、こんな無礼なことするつもりはなかったのに。イチゴちゃんのかわいさがぼくにほっぺをなめさせたんだな。罪なイチゴちゃんだ」
カナのところにいって、ほっぺを拭いてもらっている。ぼくは寝室に戻って着替えを済ませ、忘れ物をとってくる。
「カナ、イチゴちゃん、これなーんだ」
ぼくは握っていた両手をパッと開いてひとつづつネックレスをさげる。
「すごーい」
「きれいね!」
どっちがどっちのネックレスをとるのか、目で交渉して決まったらしい。イチゴちゃんが赤っぽいガラスのついたネックレス、カナは青っぽい方を手にとった。
「これはね、ぼくがモンスターと戦って手に入れた宝物なんだよ」
「ホント?スライム?」
イチゴちゃんが食いついてきた。ゲームが好きなのかな。
「う、うん、スライムかな」
とくに考えていなかった。
「なにで倒したの?勇者の剣?」
「えーと、エクスカリバーかな」
「すごーい、エクスカリバーなら、もっと強いモンスターと戦えばよかったのに」
「え?あ、そう?いやー、逃げちゃったんじゃないかな。エクスカリバーだもん」
「そっかー」
だんだん罪悪感が芽生えてくる。
「スイスはフランだったかしら?ユーロじゃなくて」
「ん?なんのことかなー?」
「カズキ、値札つけっぱなしよ?」
カナにツッコまれてしまった。しーってやる。もう遅いけど。
「カナちゃん、ダメだよ。カズキにも立場ってのがあるんだから、乗ってあげないと」
「そう?ちょっと冗談をいってみただけなのにイチゴちゃんが乗っかっちゃって、設定があいまいなまま着地点を見失っているように見えたのだけれど」
ふたりに見つめられてしまった。ぼくの罪悪感は収穫してよさそうだった。
「はい、スイスのお土産です。お収めください」
「ありがと、カズキ。ほっぺをなめたこと許してあげる」
「さっそく首につけてくれてもいいのよ?」
ぼくははいはいといって、ふたりにネックレスをつけて差し上げた。値札は、一応こっそりはがした。ネックレスはふたりのお気に召したらしい。
「じゃあ、行きましょうか」
ふたりがぼくの手を片方づつ握った。玄関の方へひっぱっていこうとしている。
「あれ?ぼくまだご飯食べてないんだけど」
「ラップかけておくね」
祥子が笑顔で見送りの手を振っている。沙希さんも、よろしくと片手をあげた。ぼくはふたりを幼稚園まで送る光栄を得たのだった。早く朝食にありつきたい。
ぼくはカメラマンだ。独立している。独立してもう五年くらいになるかな。
沙希さんは、ぼくが勤めていたときに仕事を一緒にしていたことがある。ぼくが独立した年、沙希さんも仕事を辞めて結婚、ぼくが卒業した専門学校の写真科にはいって後輩になった。在学中に賞をとってプロとして仕事をはじめた。卒業してすぐ、イチゴちゃんを出産した。卒業前、事務所をはじめたいとぼくに相談してきた。沙希さんは大学で経営の勉強をしていた人で、だったらむしろぼくを雇ってほしいという話になって、結局共同事務所というところに落ち着いた。得意分野がちがうから、お互い補いあえるし、子育て中というのも一緒だから都合がよかったと思う。イチゴちゃんとカナは同い年なのだ。
事務所は、ぼくの自宅に開いた。ぼくがやっていたのを看板架けかえた感じだ。それで、沙希さんはイチゴちゃんと一緒に出勤してきて、イチゴちゃんをカナと一緒の幼稚園に通わせている。祥子もいれた三人で幼稚園の送り迎えを分担している。
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