第3話 青写真/STRAIGHTENER
十四年前に唯の同級生だった「氏神こだま」が今家にいる。リビングに立てられた机、それを挟むように彼女と私は座る。緊張してか氏神は座布団に正座をして座っている。とても可愛らしい。
「氏神さん正座しなくていいよ。もっとくつろいで」
「いやーそんなお気遣いなく。」
そう返されると喋る事もなくなり、沈黙が続く。しかし私は対面に座る彼女の容姿の良さに眼福をあずかって、この時間を全く苦痛に思わなかった。
「一条さんって百合漫画とか好きなの、その後ろのやつ」
氏神の問いかけに一瞬なんの事か良くわからなかった。彼女に言われるまま後ろ振り返ると、百合関連の書籍・DVDを隠すために使った布が目に付く。いや、よくみるとそれは二人のキャラクターが抱き合う姿がでかでかと印刷されたバスタオルであった。
「うわわわわあわーーーーーー」
氏神の前で私は絶叫した。レズばれした。
百合を隠そうとして百合で覆うとは、自分の根っからの百合リスト振りを妬ましく思う。
「これは違うの私の弟の奴で。」
この世に存在しない弟を使って、事態の収拾を図るも氏神は特に反応がない。
「あの、その、この作品は確かに百合作品だけど、この二人いや、「天音ちゃん」と「えりちゃん」はもう神秘的な関係なの。弁当忘れた天音ちゃんにえりちゃんが、弁当ゆずるシーンとかもうコカイン画の域だったし。だから決してこのバスタオルはいかがわしくないの」
追い詰められた人間は何をするか分からないというけど、私の場合自分の推しの愛をぶちまけるだったらしい。冷汗が止まらない。
「突然一条さん叫ぶから驚きました。でも『天音の日々』は名作ですよね」
彼女は満面の笑みだった。私は彼女に率直に質問する。
「えっ、氏神さん天音の日々すきなの」
「はい。百合漫画の金字塔ですから。」
凛として堂々と返す彼女に少しづつ安心感を覚え始める。
「じゃ私が百合漫画・アニメオタクでも引かない」
「引きませんよ。私も百合大好きですから。」
その一言を聞いて即座にバスタオルの封印を解いた。
「あの氏神さんよければ、いまから百合トークをしませんか。資料は揃ってます。」
「勿論です」
そう言ってみせた彼女の微笑みはこの世の者とは思えないぐらいの尊さだった。それから彼女と時間を忘れて百合トークに花を咲かせた。
「本当にたのしいよ。今までこんな語れなかったから。生まれてきて良かったよ」
「それは良かったです。」
彼女との一つ一つの会話が私を浄化していく。いきなりキスをして彼女を恋人にするという作戦はとうに私の頭からなくなっていた。
「そいえばなんで、氏神さん今日私の家にきたの」
「それですは」
その瞬間彼女は私の胸の方に何か貼り付けてきた。なにこれと氏神に返そうとすると、体の力が抜けてその場に倒れ込む。言葉も出せない。彼女が私に寄ってきてキスをした。
「こうやってキスするためにやってきました」
彼女からはそれまでの清純さは消えていた。
「私陰陽師なんです。お札で抑え込まれいる一条さん美しいです」
私一条成美二十九年間の生涯のなかで一番理解が追い付かない状況が今現在「氏神こだま」によって行われている。
私はどうなるのだろう。
塩少々に、こだま少々 傘井 @ogiuetika
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