5. エピローグ
午前九時。二本目の煙草に火を点けた僕は再び手持ち無沙汰になって、昔撮った地元の駅での写真を見返している。
「あの日、あの新宿の映画館で彼女に会わなければ僕は……なあ」
僕は誰に聞かせるでもなくそう言い放つ。
机の上にあるカメラの角を撫でると自然と封筒に手が触れた。どうせなら、この際一緒に……と先ほど使ったカッターナイフを再度取り出し、開けていなかった方の封筒に刃を入れる。中身は三つ折りのA4用紙が一枚……とチケットのようなものが入っていた。
紙を広げると、小さな映像会社の社名に続き
渡瀬くんへ
お元気ですか? 私は元気です。
最近ようやく配給会社さんからの許可を頂き、小規模ですが単館上映を行うことができる運びとなりました。
上映する劇場は新宿のあの場所です。
良かったら一度劇場に足を運んでください。
P.S. また、会う日まで
相沢佳奈
と太めのボールペンで記されていた。
チケットを見ると中心に明朝体で『新宿イメージセンサ』というタイトルが印刷されている。
僕はその手紙を読むと焦燥感とも羨望感とも言えぬ不思議な感情に駆られ、気が付けば身体の方が先に動いていた。急いでジーンズに履き替え、ジャケットを羽織るとカメラとスマートフォンを携えて玄関へと向かう。今度は出掛けるために、向かう。
スニーカーをつま先に引っ掛けて、玄関でずっと『待て』をしていた河馬の顎を優しく撫でてから、ようやく僕は目の前の扉を開く。
ふと見上げるといつのまにか雨は上がっており、四方に聳え立つビルの隙間から朝陽が差し込んでいる。僕は白く輝くこの空がどこまでも広く、広く、広い空に繋がっていると信じてこう呟いた。
「さて、ここからまた」
新宿イメージセンサ 碚埜明生 @Haino_Aki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます