第5.5話
空に青、木々に緑。世界に鮮やかな色を流し込む春がきた。質問を終えて職員室から図書室に帰る。私語・飲食厳禁、新刊の紹介等のポスターを通り過ぎ、部屋の隅の机に行くと、彼女はいた。私が座ると、彼女は裏紙に''寂しかった"と書いて渡してきた。ボールペンで"ごめんね"と返事をしてから、ノートを机の上に立てると、そこに顔を隠してキスをした。彼女はもっと身体を突き出すと私の耳元で、顔赤いよ、心のリズム早くなってるでしょ、と囁いた。私は多くは望まない。彼女と一緒にいる事ができれば幸せだった。二人の鞄から覗き見する赤本は、どちらも同じ大学のものだった。
………そんな、彼女との選択肢もあったのかもしれない。こんなことを思うのは、眠たいからか、それとも神秘の宇宙にいつもより近いからか。私の乗った飛行機は着陸にむけて、空を滑らしていた機体を徐々に傾けつつある。進学先がウィーン、音楽の都になるとは。十数年しか生きていないが、私は人生というか、縁というか、それらに対してロマンチックになるしかなかった。その儚くも美しく甘い感情は、久々の健康的な睡眠に私を誘ってくれた。目が覚めたら、コーヒーが必要だ、ブラックの。幸いオーストリアはコーヒーが美味しいと聞く。私はゆっくりと目を閉じた。
Have seen better days 小余綾の肴 @tmilk-v
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