第5話 〜最終話〜
夏休み最後の日に、パトロンと演奏者の関係は解消した。あの日以来、彼女を見る機会はあっても話すことはなかった。私が彼女を見る時、彼女はいつも吹奏楽部員に囲まれていた。私は非公式の帰宅部を脱退して、文芸部と合併されていた名前だけの美術部にはいった。活動はいつも一人だった。久しぶりに握った筆だったが、感触は懐かしく、長らく眠っていただけで、忘れたわけではないようだった。最初こそ苦戦したものの、天才を恐れなくなった私は全国的な賞を数々得るようになった。私は海外の大学への進学が決まっていた。
高校三年の四月はすぐにきた。作業机には画集やコンテストの応募用紙などに混じって、一冊のパンフレットが置いてある。それは、吹奏楽部の定期公演会のもので、チケットが添えられていた。一緒に置いてある手紙には彼女の名前があった。ソロにも合奏にもでるらしい。彼女もまた、沢山の成功を得ているようだった。彼女は今頃ステージの上だ。ここには、私しかいない。急に世界が歪み光で溢れぼやけ始めた。気分を変えるため、美術室の奥にあるレコードプレーヤーの方に歩いていき、電源を入れた。ヘッドフォンで聞こうとしたが、やめた。針を落とすと、『She May Have Seen Better Days』が流れ始めた。
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