ポッキーの日『ダンジョンだらけの異世界~』

※11月11日はポッキーの日です。そんなわけでふざけながら真面目にSSを書いてみました。


一応断っておきますが、このSSはキャラクター崩壊とストーリー崩壊をしています。

登場人物は『ダンジョンだらけの異世界~』ですが、人間関係は本編に準じておりませんし関連はありません。

あくまで作者が主人公をモテモテにして登場人物たちとイチャイチャさせてみたいなと考えた末のおバカ企画です。

そのことを了承の上お読み頂ければ幸いです。




 ★


「さて、これで冷やせば完成かな?」


 僕は満足そうに目の前にあるものに冷気の魔法を当て始める。


「エリク様。今日は何を作っているのですか?」


 僕が一息ついたと見たのか、アンジェリカが話しかけてきた。


「うん。新しいお菓子をちょっとね」


「ほう、エリクの作る新しいお菓子か……。これは情報を漏らすわけにはいかないな」


 ロベルトがまるで国家機密のような扱いをする。その表情はとても真剣だ。


「あははは、今日はそんなに数がないからね」


 以前、僕がお菓子を作っていると次第に人が集まり始めたことがある。

 僕は何かの催しでも待っているのだろうかと思いながら気にしないようにしていたのだが……。

 お菓子が完成したころには調理室をぐるりと何週もするように行列ができていた。

 何事かと思って並んでいる人に話を聞くと「美味しそうな匂いがしたから引き寄せられた。完成したら配ってくれると聞いた」と寝耳に水の話をされたのだ。


 それ以降、僕がお菓子を作ると人が集まる傾向があるのでこうしてこっそりと行動をしている。


「あと30分程こうして冷やせば完成だからね。待っててよ」


 僕は二人にむけてそういうのだった。




「えっと、なんか増えてない?」


 周りを見ると、アンジェリカとロベルトの他に何人かがいる。


「くくく、俺に黙って試食とはいい度胸だな」


「少し用事があったので立ち寄ったのですけど」


「私はたまたまですけど」


「エリクのお菓子の匂いがした」


 タックとセレーヌさんとマリナとルナが増えていた。

 ルナの嗅覚はどうなっているのかわからないが、美味しい物の匂いにつられたということだろう。


「それでエリク。今日は何を作ったの?」


 マリナがアンジェリカと同じ質問をする。


「うん。ポキーを作ったんだ」


「それはどんなお菓子なのですか?」


 セレーヌさんの質問に答える。


「棒状のクッキーにチョコレートをコーティングしたものですよ」


 そういうと箱を開ける。中には等間隔に穴が開いていてチョコレートが入っている。そして棒の部分が上を向いていて取り出せるようになっているのだ。


「凄く美味しそう!!」


 ルナの目が輝くのを見ると僕は苦笑いをし。


「どうぞめしあがれ」


 笑顔をで促すのだった。





「「「「「「「「美味しい!」」」」」」」」


 全員がポキーの味に舌鼓をうつ。

 南海の島で手に入れたカカーオの身をゴッド・ワールド内で育てたから味に関しては超1級品なのだ。


 僕自身も味を見てみるが、これほどの味のチョコレートは前世でもそう味わったことはない。

 アンジェリカが淹れてくれた紅茶を飲んで一息つくとふと思い出す。


「そういえばポキーゲームがあったな」


「それはどんなゲームなのですか?」


 ちょうど空になったカップに紅茶を注ぎにきたアンジェリカが顔を近づけてきた。


「えっとね、2人の人間でお互いポキーの端っこを加えるんだ」


 僕は皆にこのゲームのルールの説明をする。


「ふんふんそれで?」


 ロベルトが相槌を打つ。


「それでお互いに少しずつ食べていく」


「なるほど」


 マリナが頷いた。


「それで先に口を離すか折ってしまった方の負け」


「面白そう!」


 そしてルナが食いついた。


「やってみましょう!」


 何故か全員が乗り気で僕らは『ポキーゲーム』をすることになった。





「エリク勝負しよう!」


 いざポッキーゲームを開始するとなるとルナがそんなことを言い出した。


「いいけど、どうして?」


 僕がそんなことを聞くと……。


「エリクに勝ったらなんでも好きなことを命令できる!」


「まあそのぐらいなら受けて立つよ」


 どうせルナのことだから特訓に付き合ってとかだろう。もしくは1週間専属パティシエか?

 それぐらいならいつもやっていることと変わらないから問題はない。


 僕がそんな安請け合いをすると……。


「エリクに命令できるですか……」


「なるほど、エリクさんに命令権……」


「エリク様と……うふふふふ」


「くくく、一体何を命令してやろうか?」


「またエリクは考えなしに……」


 それぞれ順番にマリナ・セレーヌさん・アンジェリカ・タック・ロベルトの順番で発言をしている。


「となるとルールをはっきりさせる必要がありますね」


「そうだな。不正ができないようにしなければ」


「エリク様に丸一日付き合っていただきショッピングしたり『あーん』してもらったり今から楽しみですわ」


「はぁ……今回もエリクのしりぬぐいか」


 何故か急に皆が盛り上がり始めた。





「さて、まずは誰から行きましょうか?」


 アンジェリカが真剣な表情で仕切り始める。

 ポキーゲームを開始すると言ってからというもの、彼女は他の王族を目の敵にするかのように牽制を始めた。


「じゃ、じゃあ私が――」


 マリナが先手を取って挙手をするのだが……。


「ロベルト。最初にやりたそうな顔をしてますわね。おやりなさい」


「「えっ?」」


 僕とロベルトの声が重なる。


「アンジェリカ様?」


 困惑するロベルトをアンジェリカは連れていく。


(良いですかロベルト。エリク様はこういったことでも百戦錬磨です。あなたがまず戦って様子を見てください)


(そ、それは……そもそも俺は参加するつもりは無かったのですが……)


(お願いロベルト。私はどうしてもエリク様への命令権が欲しいのです)


(はぁ……わかりましたよ)


 しばらくすると2人が戻ってきた。一体何を話していたのかロベルトは疲れた様子だ。


「そんじゃエリク始めようか」


 そういってポキーを加える。


「それではエリク様とロベルトの試合を始めますわ。お互いに不正をなさらず堂々と戦うように」


 その言葉を皮切りにポキーゲームが開始される。


「………………」


「………………」


 僕とロベルトはポキーを口に含んだまま視線を交差させる。

 僕が生まれ変わって初めてポキーゲームをする相手が男だということに困惑を隠せない。


「ルナ様。この映像記録魔道具で録ってください!」


「エリクとロベルトも絵になりますね」


 アンジェリカとマリナが何やら妙なことを言っている。


「ロベルト! 待っていても勝機はありません! 恐れずに進むのですわ!」


 そんなアンジェリカが発破をかける。

 僕としては親友相手でもこの行為は遠慮したいのだが……。


 ——サクサクサクサクサク――


 仕方ないのでポキーを食べ始める。

 勝手がわからないのか、やる気がないのかロベルトは浮かない顔でポリポリと食べている。


 しばらく食べていると……。


 ——ポキッ――


「あっ!」


「もうっ! 何をやってるのですか!」


 ロベルトが頭を傾けた瞬間にポキーは折れた。

 無理もない。彼と僕には身長差があるのだ。距離が近づけばどちらかの角度が厳しくなる。僕はロベルトのミスを誘って見せたのだ。


「も、申し訳ありません」


 ロベルトはアンジェリカに謝って見せる。


「大体の動きはわかりました。次は私が行きます」


 そういうとアンジェリカは口にポキーを加えて僕の前にくる。


「ん。んーんー!」


 口にポキーを咥えているので何を言っているのかわからない。

 ただ、アンジェリカは妙に恥ずかしそうにしていた。


「それじゃあアンジェリカ様対エリクの試合を開始する」


 審判役がロベルトへと変わったようだ。僕はポキーを咥えるとアンジェリカとの試合を開始した。


 ——サクサクサクサク――


 お互いにポキーを食べていく。すると少しずつアンジェリカの顔が近づいてくる。


「むっ!むーむー!」


 何やら混乱した様子のアンジェリカ。頬が真っ赤になり、視線は上下左右に揺れ動く。

 僕はそんなアンジェリカの様子が気になり心配そうな目で見る。すると……。


「むっ!」


 ——ポキッ――


 アンジェリカが視線を外した時にポキーが折れてしまった。


「エ、エリク様。そんなに見つめられたら平常心でいられませんわ……」


 心臓が飛び出ているんじゃないかというぐらい音が聞こえてくる。右手で胸を抑える様子をみると彼女はもしかして心臓病なのではないかと考える。


 そういえば母親のエクレアさんも病気だったしありえない話では無い。


 そんなふうに考えている間にアンジェリカは下がっていく。


「なるほどなるほど。雑魚2人のおかげで俺には攻略法が見えた」


 そういって現れたのはタックだ。

 漫画とかに出てくるすぐ退場する悪役のようなセリフと表情だ。


「まあいいよ。取り敢えず始めようか」


 タックが何を企んでいようと関係ない。僕はなぜ男同士でポキーゲームをしなければならないのか、そちらが気になった。


「ふぃふぜ?」


 タックも僕より身長が高い。今のところこのミスマッチに誰かが気づいた様子は無いので同じように折らせてしまおうか。そう考えていると……。


「それではタック王子対エリクの試合を開始します」


 ロベルトの掛け声と同時にタックが仕掛けてきた。


「ふぉふぁー!」


 タックの拳が僕へと迫る。僕はその拳を大きく払ってやるとお返しとばかりに拳を放った。


「ぐはっ!」


「タック王子が口を離したためエリクの勝利とする!」


 一瞬で決着がついた。


「何のつもりなのですタック王子?」


 マリナがタックを見下ろすと。


「いや、相手を妨害しちゃいけないってルールがなかったからよ。不意打ちで倒しちまえば俺が勝つと思ったんだが……」


 そんなポキーゲームは無い。あくまで友好的なゲームのはずがタックは頭がおかしかったのかルールを逆手に取ってきた。


「全く。あなたという人は……。よく考えればわかるでしょう」


 マリナはあきれた様子でタックに説教をする。もっと言ってやってくれ。


「エリク程の相手に不意打ち程度で1撃をいれられると思うのですか?」


「そういうことじゃないよ!?」


 どうやらマリナも常識が崩壊しているらしい。頭のおかしい仲間がいると伝播するのか?


「必勝法というから注目しましたのに。所詮は生徒会最弱の面汚しでしたね」


「がっかりですよタック君」


「見損なったタック」


 何故かセレーヌさんとルナにも責められるタック。


「くっ。畜生め……」


 床を叩いて真剣に悔しがるタックを僕は白けた目で見ていた。


「さて、あとは女性のみが残っているようですね」


 アンジェリカは悔しそうに3人を見ている。


「それでは次は私が行きますね」


 満を持してというかマリナが自信満々で出てきた。


「さて、エリク。私とも対戦していただきましょうか」


 何か作戦でもあるのだろうか?

 僕はマリナのその様子に怪訝な物を感じる。


「それではマリナ王女様対エリクの試合を開始します」


 とはいえ僕にどうこうできるわけでもない。僕はマリナとポキーを咥えて試合を開始するのだが……。



 ——サクサク――


 ポキーを食べる。


 ——サクサクサクサク――


 だんだんと距離が近づいてくる。


 ——サクサクサクサクサクサクサク――


 マリナは微動だにしない。


「それはちょっと卑怯では……?」


 誰かが僕の心を代弁してくれる。


(ふふふ、戦いは先に動いた方が負けです。タックの攻撃は良いヒントでした。エリクは無抵抗の相手に攻撃はしません。こうして私が動かなければ彼はどうすることもできません)


 ここまで近づいてもマリナは動かない。僕は一度止まってマリナを見つめる。

 宝石姫の呼び名通りうっすらと朱に染まった肌は滑らかで水晶のような青い瞳は吸い込まれてしまいそうだ。


 そのあまりの美しさに一瞬目を奪われていると……。


「ど、どちらか早く動いてください!」


 アンジェリカから注意が飛んできた。

 だが、マリナはそれを聞いても動く気配がない。これ以上近づいてしまっては何かの事故でお互いの唇が触れあう可能性がある。


「んむ」


 僕は覚悟を決めるとポキーを食べることにした。


「ん!? んーんー!!?」


 マリナが混乱をきたす。


(嘘っ! 近い近い近い! エリクどういうつもりですか!)


 平常心で顔を近づけていく僕にマリナは混乱している。


(こんな至近距離まで来るなんて。エリクって意外と睫毛が細い?)


 涙目になるマリナを冷静に観察していると……。


「無理です!」


 マリナがポキーから口を離してくれた。


「勝者エリク!」


「なんだぁ?」


「突然マリナ様は顔を赤くしてましたね?」


 タックとアンジェリカが怪訝な表情をする。


「今のは……幻惑の魔法?」


 そんな中、ルナが僕の仕掛を見破った。


「御名答」


 マリナがあくまで動かないので僕も際どい所まで攻め入らなければならなくなった。

 だが、このようなゲームで王族の唇を奪ってしまっては問題になる。なので、僕はマリナに幻惑を掛けると虚像を近づけていったというわけだ。


 後はマリナが根を上げるのを待てばよい。


「ううう。まさか幻覚だったなんて……」


 涙目で恨めしそうに見上げてくるマリナ。


「それでは次は私が行かせてもらいますね」


 そんなマリナの横からセレーヌさんが現れた。




「言っておきますが、聖女の私には幻惑は効果ありませんよ?」


 そういうと上目遣いに見上げてくるのだった。


「それではセレーヌさん対エリクの試合を開始する」


 何度目のやり取りになるのか、僕はセレーヌさんとポキーを咥える。

 なんだかんだで僕と一番付き合いが長い女性で、客観的に見ても主観的に見てもここにいる女性達に一歩も引けを取らない容姿をしている。


 ——サクサクサクサクサク――


 年上の包容力と豊かな肢体は男を惑わせるのか、幻惑を跳ね返されているような錯覚を僕へともたらした。


「普通の試合ですね?」


「ええ、普通ですね」


「んだよ。普通過ぎるだろ」


 アンジェリカとロベルトとタックがつまらなそうな声を出す。

 ポキーゲームとは本来こういうものなんだけどね。


 セレーヌさんは聖女だけあって真っすぐな女性だ。タックやマリナのように姑息な手段をもちいてくることはないと安心できるので僕は気にすることなくゲームを続けられる。


 やがて……。


 ——ポキッ――


「あっ、私の負けですね」


 ある程度進んだところでセレーヌさんあポキーを折ってしまった。実に順調に進んで順調に終わった。

 さて、最後はルナの相手だと考えていると……。


「うーん、やはりエリクさんには勝てませんでしたか」


 セレーヌさんは潤った唇を舐めると……。


「「「あっ!」」」


「んぐっ!」


 食べ残したポッキーを僕の口へと突っ込んできた。そして……。


「ふふふ、間接キスになってしまいましたね」


 上品に口元を隔して笑うと下がっていく。

 昔から何とも不思議な雰囲気の人だが、突っ込まれたポキーは不思議な味がした。




「最後はルナか……」


 元々彼女が勝負を持ち掛けてきたからこのようなややこしい事になったのだが……。


「エリク。はやくしよ?」


 本人は今か今かと楽しそうにしている。

 僕がポキーを用意して咥えようとしたところ……。


「ちなみに身長差によるトリックと幻惑はルナに効かないよ」


 ここまでずっと洞察していたので気付いたようだ。僕は口の端を釣り上げて笑うのだった。




 ――サクサクサクサクサクサクサクサク――


 お互いにポキーを食べて距離を詰める。

 ルナには揺らしが効かない。そのうえ頭と勘が良いのでこちらが何かを仕掛けようとするとすぐに見破って対策をとってくる。


 徐々にポキーが短くなりお互いの距離が近づいていく。

 やがて二人の距離は先程マリナに幻覚を見せた時よりも近づいてしまう。


 僕の目の前にはルナが、ルナの目の前には僕が。近すぎて焦点があわないのだが、ルナの口から洩れる吐息と「んぅ」という艶めかしい声が耳を打つ。


「これは、完全に膠着状態ですね」


「お互いの見切りが完璧だとここまで詰められるのか……」


「こうなってはどちらかがバランスを崩すしか勝負がつかないのでは?」


 周囲の適当な言葉を聞き流しながら僕はこれ以上はほんの少しも動けないと察している。

 何かの拍子にでもバランスを崩せばキスをしてしまうのだ。焦点が合わずにバランス感覚が狂い始めるのを感じる。


 そんな中ルナは……。


「んっ」


 目を閉じた。そして気のせいでなければこの瞬間本のコンマ数ミリ、ルナが唇を僕に寄せた。


 ポキーゲームには勝ち負け以外にもう1つ決着がある。それは引き分けだ。

 ポキーが無くなった時にどちらも口を離さない状態。つまりキスをした時のみ引き分けとなる。


 ルナは目を閉じ、周囲の人間は固唾をのんで見守っている。次第にルナがバランスを傾け二人の距離がゼロになろうかというところで……。


「うおっ!」


「きゃっ!」


「なんですかっ!」


「地震ですね」


 地面が揺れ、そのバランスに乗じて2人の唇が離れた。


「結局どちらの勝ちですか?」


 アンジェリカの質問に。


「地震と同時に離れたから引き分け」


 ルナがそう言った。


「むー。惜しかった。エリクに言う事効かせたかったのに」


 悔しそうな表情を僕へと向けてくる。


「まあ惜しかったな。とりあえずそろそろ良い時間だしお開きにしよう」


 そう言うと僕は片づけを始める。

 皆はなんだかんだで楽しかったのかワイワイと話しながらそれを手伝ってくれるのだった。




「ふぅ。今日も楽しかった」


 ゴッド・ワールドに引っ込んで休んでいる。

 思い出すのは今日のゲームについてだ。


「前世ではああいう遊びをする相手もいなかったもんな。皆でお菓子を食べて遊ぶ。この世界は本当に楽しい」


 あの事故死する直前ではその後こんなに楽しい生活が待っているなど想像も出来なかった。

 実はこれが夢で自分は今頃植物人間になってベッドに横たわっていると言っても信じてしまいそうだ。


「イブもポキー食べたかったです」


「ごめんな。タイミングが悪くて回収できなかったんだよね」


 イブが頬を膨らませながらそう主張してくる。


「ところで地震ありがとうな」


 先程の膠着状態でルナとキスしそうになった時都合よく地震が起こった。

 あれはイブが建物を揺らしたのだ。お陰でキスをせずに済んだのだが……。


「えへへへ。なんだか急にゴッド・ワールドの制御が甘くなっただけですからね。イブもどうして揺れたのか不思議なんですよー」


 まるで悪戯が成功したかのようにイブは笑って見せる。


「まあなんにせよ今日は疲れたな。あんなきわどいゲームは神経を使うからもうこりごりだ」


 何とか策を弄することで完勝してみせたが、同じ手が通じる奴らじゃない。何度かやれば負けてしまうだろう。


「そのことなんですけど」


 イブは後ろにやっていた手を前へと持ってくる。その手にはあるものが握られていた。


「実はイブもこっちで作ってたんです。なのでマスター……」


 それは僕が先程から散々咥えていたお菓子だった。


「もし良かったらイブとも勝負していただけませんか?」


 妙に恥じらいながら上目遣いで見上げてくるイブがいる。僕はそんなイブに対し……。


「……望むところだよ」


 と呟いた。

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『まるせい短編集』 まるせい(ベルナノレフ) @bellnanorefu

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