第14話 最終話
東京の表参道で律子は自分の新しい曲のための撮影をしていた。
黒い髪は後ろにまとめられ朱に染まる口紅をした自分の姿に多くのスタッフが驚きと、なんともいえないため息をついて言葉をかけてくれた。
「ちょっと、律ちゃん。今日、すっごい大人ね?どうしたの?」
気心の知れた女性スタッフが耳打ちで小さく言う。
「何でも、お付き合い始めたそうで」
律子はそれに小さく首を傾げた。
「さぁ、それはどうかな」
そして小さく笑う。
「えぇ、だってさ。休暇から戻ったら赤坂のカフェで話し込むケイスケと律ちゃんを見たって噂よ」
ふふ、と律子が笑う。
「それはさ・・内緒ってことで」
「えー!!、意地悪しないでさ。教えてよ!」
そう言うスタッフを律子は引き離すと音楽雑誌のインタビューを受けた。
「今回のアルバムは故郷で得た貴重な体験を表現したとか?」
「ええ」
にこりと微笑むと律子は「美しいところでまた行きたい。」と短く言った。
(きっと故郷ではもうすぐ稲を刈る時期が来るだろう)と律子は思い、シャネルのショウウインドウのガラスに映る自分の姿を見た。
今の自分は都会で生きる仮面をつけているようだった。
小麦色に焼けた肌は化粧できえ、都会の摩天楼に生きる音楽家として自分いる。
都会でも木霊は聞こえる。ビルの壁に反射して、それは響く。
聖児はきっと今頃美しい彫像を自分の森の中のアトリエで今日も作っているだろう。
蚤を持ち、自分の求める美しい美のミューズを、今日も探しているだろう。
(そういえば・・)
律子は自宅に送られた聖児の作品のレゾネを開いた。
一つの作品があった。バイオリンを弾く少女の像だった。
聖児はこれで欧州への留学する機会を得た。
自分は忘れていた。この写真が自分自身であること、そして何よりも自分があの日ウィーンで見たものはこれだったのだ。
(あの日、私はその美術館でこれを見た)
やはり奇妙だった。
彼とのこれからはどうなるかは分からない。
律子は、微笑むとスタッフのほうへ歩いていった。
今日は忙しい日になるだろう。そう思うと頑張らなければと思った。
故郷に忘れたバイオリン 日南田 ウヲ @hinatauwo
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