第41話 平和の琥珀団

「はーい! カレーおまたせー!」


 王国内のとある街にある公園、ソフィーたち異種族がカレーを運ぶ。灰色の琥珀団は、帝国を降伏させたとして、名を知らないモノはいない程に有名になった。店舗すら構えていない広場で、人々がソフィー達の作るカレーを食べにやってきてくれる。

 とても素晴らしいことだ。ツネヒコはそのカレーを木陰で食べながら、客を眺めていた。

 

「ずいぶんと王国も変わったな。シム、君達以外のエルフも並んでいるぞ」


 木陰のベンチ、木製のテーブル。傍らにいるシムもカレーを食べていた。


「森に住む方のエルフですわ。もう異種族という垣根が無くなりましたもの。ツネヒコのお蔭ですわ」

「俺だけじゃないだろ。皆で頑張ったから、奴隷制度は無くなったし、隠れて暮らす必要もなくなったんだ」

「そうですわね――今度、他種族との婚姻も許可されるそうですわ」

「へえ、それはめでたいことだな」

「だから……その……ワタクシと結婚を考えてみても……」

「へ?」


 ツネヒコは思わずスプーンが止まった。見ると、シムはじっとこちらを見ていた。カレーの香辛料のせいだとは思えないほど、顔が赤い。


「ワタクシは本気ですわ」

「えっと、俺はその……」


 しどろもどろになってるところ、後ろから肩を押された。エジンコートだ。


「結婚? 私を一生養ってよ、ヒモになるから」

「それはハッキリ言える、それは無い」

「うえー! そんなー!」


 エジンコートはあからさまなショックを受けていた。話の腰を折られたのか、シムは膨れ面だ。


「ツネヒコは既にワシの伴侶でありますよ」


 チコリは値札のついた剣を持っていた。広場で売っている最中だ。危ないから置いてから来なさい。


「魔剣の主として、形式的なだけですわ。ツネヒコにはエルフの王にもなっていただかないと」

「いやいや、ツネヒコ殿はワシと色々忙しいので、渡さないであります!」

「ねー、ヒモー」


 言い争う三人を前に、ツネヒコは食が進まない。困っていると、一陣の風が吹いた。ニンポーという奴だ。ハトムギがドロンと姿を現す。


「縁談でしたら、ぜひヒガシヤストラへ来るでござる! 我が主の世継ぎが決まってなかったでござるよ」

「勘弁してくれ!」


 再び、風が吹いた。今度は突風だ、ツネヒコの身体が宙に浮く。


「うわっ!」

「ツネヒコは私の!」


 竜になったソフィーに颯爽とつまみ上げられた。大きな背に無理矢理乗せられ、空に向かう。


「ああー、ずるいでありますよ!」

「ソフィーちゃん、早く戻ってらっしゃいー」

「そのままヒガシヤストラに行っても良いでござるよー」

「ヒモ―」


 地上の四人の声が遠くなっていく。竜の背に乗ったツネヒコは、蒼い空の風を一身に受けた。


「ソフィーは強引だな」

「空には領域が残っているから、永遠と飛び続けられるね」


 グレモリーの約束通り、空の領域は悪魔の書に封印していない。点在している領域内に入り込めば、終わりの無い空を飛べるだろう。


「ずっと一緒にいたいのか?」

「うん!」


 ソフィーは元気よく返事した。ツネヒコもつられて笑顔になる。


「しょうがないな。気が済んだら帰るぞ」


 空じゃソフィーに身を任せるしかないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界チートで騎士になる予定だったけど、没落していたのでハーレム傭兵旅団を作ります 宮野アニス @a-miyano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ